スイッチ・オン。
「…」
「あれ?」
「…」
「国分さーん。これホントに動いたんですかー」
試作機は何の反応も示さない。同じ部品を使うブレッド・ボードでは動作するくせに,実際のボードでは動作しないのだ。一体何が悪いのか。
考えられるのは,マイコンとROMとのデータのやりとりがうまくいっていないということだった。マイコンがROMに対し,あるプログラムをDRAMにダウンロードする命令を発行する。それに応えるかたちでROMがDRAMにプログラムを返す。この動作に不具合があるはずだ。しかし,その原因がハードにあるのか,ソフトにあるのか,それさえわからない。
総動員で原因究明せよ
国分氏と山崎氏は原因究明のために動作検証を繰り返す。しかし,1週間たっても原因はつかめなかった。彼らだけでなく,設計部全体に焦りの色が広がり始める。
この問題は設計チームの最優先課題となり,メンバを総動員して原因究明に当たる。刻一刻と時間は過ぎる。ノイズ除去作業は開始が遅れるばかり。年内には基板を完成させないと,翌年3月の量産出荷には間に合わない。ただでさえ残り少ない時間がどんどん費やされていく。
昼も夜も,明けても暮れても,国分氏や山崎氏,そのほか設計部の面々は不具合の原因を突き止めるために,実験を繰り返す。しかし,原因を絞り込むことはできても,なかなか特定するまでに至らなかった。
こうして,さらに1週間が過ぎた。明確な原因は特定できていない。ただし,各自の検証結果を総合すると,発生源は一つしか考えられなかった。
「結局,ここしか考えられないんだよね。だけどどうすれば正常に動作するのかがわからないんだ」