「あ。ここはどう?このすき間に基板を入れちゃえばいいじゃない」
沈黙を破ったのは南雲氏だった。彼が指していたのは,液晶ディスプレイの背面にあるすき間である。
「こうやって入れるんだよ」
南雲氏は図面にそのアイデアを書き込む。液晶ディスプレイは,バックライトから出た光がパネルに均一に当たるよう,パネルの背面に反射板を設置し,このパネルと反射板を金属のフレームで固定している。反射板はパネルとまったく平行ではなく少し傾いているため,傾いた反射板とフレームの間には,わずかなすき間がある。そこを利用すれば基板を挿入できる,というのが彼の提案だった。
「そんなところに基板を入れるなんて話,聞いたことないですけど」
「でもいい案かもしれませんね」
「じゃ,早速検討してみてよ。すぐにね。よろしく」
冗談のようにして湧いてきたアイデア。実現するかどうかはまったく未知。しかし彼らは,ワラにもすがりたい心境だった。なにしろ,もう時間がない。デザインの決定が1997年の5月まで延びに延びたことに加え,7月には「プロト1」と呼ばれる最初の試作品の社内発表会が予定されているのだ。それまでにはなんとしても形にしなければならない。製造期間などを差し引いて,逆算すると設計部に与えられた猶予期間は1カ月ほどしかなかった。
パネル・メーカを口説け
ところが検討を始めてすぐ,松尾氏は「いける」との感触を得る。