ESCとソレノイドを共通化

 一つは、各輪の制動力を制御するソレノイドバルブに、従来型プリウスでは、リニア・ソレノイド・バルブを使っていたのに対し、新型プリウスでは、通常のABSやESCで使っているのと共通のデューティ制御型ソレノイドバルブを使っていることだ。リニア・ソレノイド・バルブは、内部のスプールバルブを高い精度で位置決めすることで、精密に油圧を制御できるのが特徴。ただし高コストで寸法も大きい。

 これに対しデューティ型ソレノイドは、基本的にはオン/オフ動作しかできないが、オン時間とオフ時間の比率を変えることで油圧を制御できる。ただし、その精度はリニアソレノイドほどではない。

 リニアソレノイドは、高級車種の「レクサスLS」や「同GS」などに搭載している高性能なブレーキシステムにも採用されている。各輪にリニアソレノイドと圧力センサを備えることで、各輪のブレーキ油圧を独立して制御することができることから、ハイブリッドでない車種にも採用されている。

 これに対し、新型プリウスのブレーキシステムでは、システム全体の油圧を決定する部分だけにリニアソレノイドを使い、この油圧を検知するホイールシリンダ油圧センサも1カ所だけ。その油圧をどの程度伝えるかを、各輪に装備したデューティ型ソレノイドで決定する方式を採用している。すでにESCなどで実績のある方式であり、性能的には十分だとトヨタは判断したのだろう。

 もう一つ、新型プリウスのブレーキシステムで低コスト化に貢献したのが、電源が落ちたときのバックアップ方式の変更だ。ブレーキ・バイ・ワイヤのシステムでは、ブレーキペダルは単なるスイッチに過ぎないので、電源が落ちるとポンプを駆動するモータが動かず、制動力を発生できなくなってしまう。これを防ぐために、従来型のプリウスではバックアップ電源としてキャパシタを備えていた。

 これに対し、新型プリウスは、従来型プリウスでは油圧ユニットと一体だったポンプ、モータ、アキュムレータを切り離して独立させ、アキュムレータからの高い油圧がマスターシリンダにも伝わって油圧ブースタとして機能するように変更した。電源が落ちた場合には切り替えバルブが開き、ドライバーのペダルを踏む力が油圧ブースタにて補助されて各輪に伝えられる。

 電源が落ちるとポンプのモータは動かなくなるが、アキュムレータに蓄えられた油圧で、ブレーキ2~3回分くらいは補助できるという。これによりキャパシタを省くことができ、低コスト化につながった。

※この記事は日経Automotive Technology 2010年3月号、pp.53-56の記事を再構成したものです。