KDDIは2009年6月,「ブックケータイ」と銘打つ,電子書籍機能をウリにした携帯電話機を発売した。その背景について同社は,「最近では出版社の意識が変わり,ベストセラーの小説も集まるようになった。そこで,電子書籍を普及させる好機と考えた」(同社 サービス・プロダクト企画本部 プロダクト企画部 商品戦略2グループリーダーの繁田光平氏)と打ち明ける。

 国内の新聞各社も動き始めている。産経新聞社は,2008年12月からApple社の「iPhone」向けに新聞紙面を無料で見られるサービスを始めた。「電子新聞は,決して紙の新聞の市場を食うものではない。別のサービスと認識して取り組むべき」(産経デジタル 代表取締役社長の近藤哲司氏)。同社は今後,有料化を含めさまざまなビジネスモデルの構築を検討する構えだ。また,毎日新聞社は2009年6月から,韓国で電子書籍端末向けに新聞コンテンツの有料配信を始める(図6)。

図6 既に動き始めている世界の新聞
図6 既に動き始めている世界の新聞
フランスの経済誌「LesEchos」は,2007年9月から電子書籍端末への配信を始めている(a)。世界の先行事例とされている。現在,Kindle向けにも,多数の新聞が配信されている(b)。

市場には多くの参入余地

図7 多様性に富
図7 多様性に富む電子書籍市場
言語やコンテンツの種類,地域特有の商習慣などに対応した多種多様なビジネスモデルが存在し得る。その幅は,同じコンテンツ・ビジネスである音楽配信や映像配信より格段に広い。

 電子書籍市場は,まさに今,立ち上がったばかりで,多くの参入余地がある。優れたビジネスモデルを構築したAmazon.com社やソニーが市場で先行し,優位な位置に立っているのは間違いないが,彼らがすべての市場を支配するとは考えにくい(次回の「クローズドなKindleに対抗勢力,ソニーや Googleはオープンを標榜」(2/8公開予定)参照)。なぜなら,電子書籍市場は,同じコンテンツ・ビジネスである音楽配信や映像配信に比べて,極めて多様性に富むからだ(図7)。

 例えば書籍は,言語の壁が高い。音楽や映像と違って,他言語のコンテンツを日常的に消費する人口は少ない。このため,Amazon.com社やソニーはまず,米国や欧州など英語圏を軸に市場を広げようとしている。日本を含むアジアへの進出は未定である。

 コンテンツの種類も,書籍だけでなく新聞や雑誌,コミックなど多岐にわたる。そこには,教科書などの教材も含まれる。例えば米国カリフォルニア州は2009年6月,2010年9月の新学期から一部の教科書を電子化する方針を発表している。

 電子書籍では,ターゲットとするコンテンツの種類によって,求められる端末の種類や性能だけでなく,ビジネスモデルも異なってくることが考えられる。黎明期だけに今後もさまざまな端末やサービスが登場し,市場にその評価を問うことになるだろう。

―― 次回へ続く ――