ベストセラーがそろう

 (3)のコンテンツについても,出版社や新聞社の意識が様変わりしたことで,状況は好転している。コンテンツの頭数をそろえることが,以前より明らかに容易になってきた。その背景にあるのが,インターネットの普及によって世界で進む出版・新聞不況である(図5)。これに昨今の経済不況も加わり,出版・新聞業 界は今まさに新たなビジネスモデルの構築を迫られている。これが,出版社や新聞社を電子書籍に対して積極的にさせている理由である。Hearst社やNews Corp.といった米国メディア大手が自ら動き始めたのも,それと無関係ではない。

図5 出版・新聞不況が変えたコンテンツ提供側の意識
図5 出版・新聞不況が変えたコンテンツ提供側の意識
新聞(日刊紙)の発行部数は,米国も日本も下降線をたどっている(a)。国内では雑誌や書籍も同様だ(b)。こうした苦境が,コンテンツ提供者を電子書籍事業へ向かわせている。

 さらに,Amazon.com社やソニーの事業が成功したことも,出版社や新聞社を突き動かす要因になっている。ソニーは「最初は疑心暗鬼だった出版社も,ここにきて一気に理解が進んできた。我々にコンテンツを提供すれば『売れる』と分かってもらえるようになった」(Sony Electronics社の野口氏)という。Amazon.com社の関係者も,「2009年に入り,目に見えて電子書籍コンテンツの増加ペースが加速した。電子書籍版を用意しても,紙の本の売り上げには影響しないと分かったことが大きい」とする。

 コンテンツの量だけでなく,質もグンと高まっているようだ。「ここにきて,鮮度の高いベストセラーが数多く集まるようになってきた。例えば,米New York Times紙が調査・発表するベストセラー100冊のうち,常に90冊以上のコンテンツを用意できるようになった」(Sony Electronics社の野口氏)。

動きが遅い国内にも波及

 コンテンツについては,書籍に対する商習慣の違いもあり,地域によって状況は少しずつ異なってくる。米国などに比べると,国内は相当動きが遅かった注1)。しかし最近では,変化の兆しが見えている。ある国内出版社の担当者が「電子書籍は,もはや世界の潮流だ」とすれば,ソニーのLIBRIé向けにかつてコンテンツを提供していた出版社は,「今から考えると,当時は及び腰だった。だが今は本気だ。端末メーカーなどと協業しながら,体制づくりを進めたい 」と前向きだ。

注1)書籍では「再販制度」,新聞では「販売店」の存在が,電子化に二の足を踏ませる大きな要因になっていたとの指摘が多い。