市場は5年で30倍との予測も

 電子書籍市場には今,景気の良い話が幾つも飛び交っている。「100年に1度」ともいわれる2008年後半からの世界的な経済不況とは無関係と思えるほどである。例えば,Amazon.com社やソニーの電子書籍端末は,2008年末から2009年にかけて急激に販売台数を伸ばしている (第1回「ソニー対Amazonが明日への道を開拓」参照)。これと同期するかのように,米国における電子書籍コンテンツの市場規模も,2008年後半から急拡大を見せている(図2(a))。

 今後の電子書籍市場の成長予測にも,勢いのある数字が並ぶ。調査会社の米In-Stat社の最近のレポートによれば,電子書籍(専用)端末の世界出荷台数は2013年に2860万台に達する(図2(b))。2008年の出荷台数は100万台前後とされることから,わずか5年で約30倍にも膨れ上がる計算だ。 

【図2 飛ぶ鳥を落とす勢い】 米国での電子書籍コンテンツの市場規模は,2008年後半から急成長している(a)。電子書籍端末や,同端末向け電子ペーパーの出荷台数は今後,劇的に増加すると予測されている(b)。図に示したネットブックの出荷台数予測は米IDCによる。
図2 飛ぶ鳥を落とす勢い
米国での電子書籍コンテンツの市場規模は,2008年後半から急成長している(a)。電子書籍端末や,同端末向け電子ペーパーの出荷台数は今後,劇的に増加すると予測されている(b)。図に示したネットブックの出荷台数予測は米IDCによる。
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 約3000万台という数字は,例えば2009年のネットブック(小型・低価格のノート・パソコン)の世界出荷台数の予測を大きくしのぐ規模である。これを考えても,電子書籍市場は端末メーカーのほか,ディスプレイや半導体,電子部品といったエレクトロニクス業界全体に極めて大きな影響を及ぼす存在になり得ることが分かる。

 実際に,エレクトロニクス業界の現場では,電子書籍市場が急成長を遂げている感触をつかんでいる。電子書籍コンテンツ用のフォーマット「XMDF」を開発するなど,同市場に長年かかわっているシャープは,「ようやく日が当たる時が来た。今が勝負どころだ」(同社 オンリーワン商品企画推進本部 SST推進センター 所長の矢田泰規氏)と意気込む。ある国内端末メーカーの技術者は,「明らかに市場の風向きと雰囲気が変わった。我々もビックリするくらいだ」と語る。

潜在需要を掘り起こす

 死屍累々の山――。これまでの電子書籍の歴史を端的に表現すると,こうなる。「近い将来,電子データの形式で本を読むのが当たり前になる時代が来る」とい うことは,誰もが予見していた。問題は,いつ,どういう形で市場が立ち上がるのかだった。多くの企業がこれまで市場開拓を試みてきたが,そのほとんどは成功に至らず,難攻不落の市場というイメージだけがドンドン膨らんでいった。