前回から続く)

 前回,日本の半導体メーカーの特徴をさまざまなデータから分析した(連載第1回)。これを踏まえて半導体メーカーへの処方箋を提示したい。まずは大手半導体メーカーに対してである。

大手は事業改革に2~3年出遅れた

 日本の大手半導体メーカーといっても多種多様であり,ここでは表1のようなライン構成の企業群を想定する。処方箋を提案する前に,まずはこの想定企業の製造面の現状を示す。

表1 大手半導体メーカーの例
表1 大手半導体メーカーの例

(1)2004年以降の売上高の伸びが止まるもしくは若干の減少傾向となっており,日本の半導体産業の引き続く不調と同様のトレンドを示している。

(2)幅広い製品群とプロセス(ロジック,マイコン,パワー/高耐圧,個別半導体まで)を所有する。

(3)2004年の好況期に決定した300mmラインで90nm品を生産,65nm世代の大規模な投資には踏み切っていないところが多い。

(4)2008~2009年に先端ロジック品の開発および自社生産からの撤退を発表しているものの,この動きは欧米の大手IDM(米Texas Instruments, Inc.やオランダNXP Semiconductors社など)と比べて2~3年遅れた。

(5)早くから事業改革に動いた企業は2008年に複数の工場の閉鎖と統合を発表。またほとんどのメーカーも経済危機を受けて同様の統廃合を発表している。

(6)大量に単一の製品を製造する専用ラインというコンセプトで設立された工場は,その特定製品を製造するのには適している。しかし,そのコンセプトの旬が過ぎた後は,その大きすぎる生産能力が製造装置の面から他の用途への転用が課題となる。また製造現場の意識を転換しなくてはならないという点でも課題となる。

自社製品に最適な生産が困難な状況に

 これを踏まえて想定される課題には以下の点がある。

(a)最適な生産量と製品を最適なラインで生産するのは,難しい“パズル”を解くようになるケースがある。これは,同じ線幅に対応できるラインが複数存在し,お互いの工場間でもラインを奪うための駆け引きがあることによる。

(b)抱える製品の競合も大手半導体メーカーや大手ファブレスとなり,最先端工場で製造することが,製品の競争力を維持するための必要条件となる。自社でその製造をまかなう戦略の場合,継続的な投資が必要になる。

(c)200mm品の生産は300mmラインへの移植が可能だが,300mmラインを埋めるには不十分な場合がある。

(d)古いラインの製品群を大口径工場へ移植する場合,時に経済合理性に合わないことがある。

(e)製品供給責任などの問題から,古いラインを閉めることができない場合がある。その場合,すべての工場の稼働率が低く,固定費負担が重くなるという問題に直面する。

(f)製品競争力の維持のためには,製品の進化(設計)と工場の微細化への投資の両方が常に要求される。

(g)ラインを埋めるための製品開発が製品の微細化や進化よりも優先されることがある。