健康情報が流通する

 健康管理にエレクトロニクス技術を活用することで得られる具体的な意義の一つは,健康情報を“流通”させられることである。これまで単体の健康機器の中などにとどまっていた健康情報を無線などを介してネットワーク上で一元管理することで,より統合的で効果的な健康管理サービスが可能になる。

 前出のNTTドコモが手掛けるウェルネスサポートの狙いも,まさに健康情報の流通にある。Continua Health Allianceが取り組んでいるのも,健康情報を流通させるために健康機器と電子機器の相互接続を実現する標準規格の策定だ。

 日立製作所もこうした観点から,ヒト(やモノなど)をセンサ・ノードにして,センサから得た情報を一元的に可視化する,いわゆるセンサ・ネットワーク技術が健康管理に活用できると踏む(図3)。例えば同社は,腕時計型の生体情報取得センサを開発し,取得したデータを基に見守りや健康サービス,生活リズムの解析などに応用するための検討を進めている。

図3 センサ・ネットワーク技術で健康管理市場を創出
センサ・ネットワーク市場の分野別の規模を示した。2007年にはほとんど存在しなかった健康管理の分野が,2015年には約5000億円の市場規模になると見込まれる。(図:日立製作所の資料を基に本誌が作成)

医療やバイオの領域も

 これまでは,エレクトロニクス技術が実現する理想的な健康管理の姿に注目が集まってきた。しかし,これからは本格的な市場の立ち上げに向けて,具体的な課題を一つひとつ克服する段階に移っていくだろう。例えば,健康情報を流通させる上でセキュリティーの確保は欠かせない。セキュリティー技術の確立は,間違いなく今後の焦点の一つになりそうだ。

 さらに今後は,これまで述べてきた健康管理市場だけにとどまらず,医療やバイオといった領域でも,エレクトロニクス技術がますます求められてくる(図4)。

図4 大きく三つの領域でさまざまなエレクトロニクス技術が活躍する
医療エレクトロニクスには,大きく三つの領域がある。すなわち,医療,健康管理,バイオ,である。それぞれの領域に対して今後,さまざまなエレクトロニクス技術が下支えすることになる。

 医療の領域では,例えばX線CT装置などの画像診断装置を高性能化させるために,最先端の電子部品や画像処理技術が不可欠だ。カプセル内視鏡の進化には,電池技術やMEMS技術の後押しが欠かせない。

 バイオの領域でも,例えばDNAチップなどのバイオ・センサの実用化に向けて,半導体技術や解析(コンピューティング)技術が必要になる。

 少し目線を変えれば,エレクトロニクス業界には,まだまだ取り組むべき市場が広がっている。

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