不況に左右されにくい

 昨今の不況下で,健康管理市場にひときわ高い注目が集まる理由の一つに,「不況に強い」(ある国内電機メーカーの技術者)という側面がある。消費という行為に直接的な関係がなく,人間の病気や健康の状態に依存するこの分野は,従来のエレクトロニクス市場に比べ経済状況に大きく左右されにくいのは確かだろう。不況に多大なる影響を受けた現在のエレクトロニクス業界を見渡すと,それは大きな魅力に映る。

 あくまで断片的な見方だが,関連する展示会の規模の変化からも両者の対照的な状況が浮かび上がってくる。2009年10月に開催されたエレクトロニクス業界で国内最大のイベント「CEATEC JAPAN 2009」の出展者は590社・団体。前回の804社・団体から,約27%も落ち込んだ。これに対して,医療・健康分野における国内の二つの大きな展示会の規模は,ほぼ横ばいにとどまった。具体的には,同年4月に開催された「2009国際医用画像総合展(ITEM 2009)」の出展者は前年比2%増の144社。同年7月に開催された「国際モダンホスピタルショウ2009」の出展者は7%減の347社だった。

環境問題と同じ構図

 健康管理にエレクトロニクス技術を活用しようとすることは,単に「次のメシの種」を探すエレクトロニクス企業にとっての都合だけではない。世界全体が直面する喫緊の課題への対処策でもあるのだ。

 現在,少子高齢化の進行や生活習慣病の増加に伴う医療費の高騰が,社会問題になり始めている。国内では国民医療費が右肩上がりで,2007年度には国民所得に占める割合が9.11%に達した(図2)。同様の状況は,米国や英国など先進国の多くが抱える問題になっている。このため,エレクトロニクス技術を活用することで家庭や個人における健康管理の利便性や効果を高めることの重要性が,あちらこちらで叫ばれ始めているのだ。

【図2 上がり続ける国民医療費】 国内における国民医療費と,国民医療費の国民所得に対する比率の推移を示した。2007年度の国民医療費は34兆1360億円,同年度の国民所得に対する比率は9\.11%に及ぶ。(図:厚生労働省の資料を基に本誌が作成)
図2 上がり続ける国民医療費
国内における国民医療費と,国民医療費の国民所得に対する比率の推移を示した。2007年度の国民医療費は34兆1360億円,同年度の国民所得に対する比率は9.11%に及ぶ。(図:厚生労働省の資料を基に本誌が作成)
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 これは,CO2排出量削減をはじめとする低炭素社会の実現に向けて,エレクトロニクス技術に大きな期待が寄せられているのと同じ構図ともいえる。米 General Electric Co.(GE社)が2009年5月,「環境問題と同じように,ヘルスケアは世界的に直面する困難な課題」と位置付け,健康管理への取り組みを強化する新戦略を発表したことは,それを象徴している。「ヘルスケアは『エコ』に似ている。今はまだリアリティーがないが,いずれ大きな社会問題になる。数年前まで,我々企業にとっても一般消費者にとってもリアリティーがなかった環境問題と同じように,ヘルスケアには真剣に取り組む必要があるだろう」(ある大手電機メーカーの技術者)。