ただし,携帯電話機向けソフトウエア・プラットフォームの整備が進んだことで,後発メーカーであっても相応の機能を備えた携帯電話機を開発できるようになった。新興国の企業とのコスト競争に陥るのは,国内のメーカーにとって望ましくないシナリオだ。既存の技術や他社の力をうまく活用しながら,事業者や国ごとに異なるサービスへの対応を迅速に行ったり,メーカーの独自色を打ち出したりすることが重要になる(図3)。
米Motorola, Inc.の「Droid」や日スウェーデン合弁Sony Ericsson Mobile Communications ABの「XPERIA X10」など,Androidを採用しながらメーカーの独自色を打ち出した携帯電話機も登場しつつある。水平分業型の事業モデルにおいて,携帯電話機の納入先である携帯電話事業者やユーザーにどのような付加価値を提供できるのか――。その答えをいち早く見つけたメーカーに勝機がやって来る。
LTEでケータイの姿が変わる
2010年は移動体通信方式の転換点でもある。「3.9G」と呼ばれるLTEの導入が始まるからだ。移行が本格的に進むのは2012年ごろの見込みだが,NTTドコモが2010年12月にLTEを導入するほか,米Verizon Wireless社やスウェーデンTeliaSonera ABなどが同年中のLTE導入を表明している。3.9~4G時代に携帯電話機がどう在るべきかを模索する取り組みが,2010年に本格化しそうだ。
LTEの導入初期には,送信と受信が2チャネルずつのMIMO(multiple input multiple output)を使う「カテゴリ3」が採用される見込みである。10MHz幅を利用した場合の最大データ伝送速度は,下り75Mビット/秒となる。動画などの大容量のコンテンツを利用しやすくなり,携帯電話機にはより高い演算性能や,より高解像度のディスプレイが求められることになりそうだ。
「データ伝送速度の向上よりも,遅延時間の短縮という変化の方が大きなインパクトがある」(NTTドコモ 執行役員 研究開発推進部長の尾上誠蔵氏)という見方もある。LTEでは,接続を確立するまでの時間と,無線区間の片道のパケット伝送時間が,それぞれ現行の3G方式に比べ1ケタ短くなる。これによって,ネットワーク越しに利用するサーバー側の機能やデータを,あたかも手元に存在するように使える可能性が高まる。いわゆる「クラウド・コンピューティング」とどのように融合させていくかが,LTE以降の携帯電話機の姿を考えるカギとなる(図4)。