この米国市場の中でも,大手IT企業やベンチャー企業が競って参入を表明しているのが,家庭のエネルギー管理システム「HEMS(home energy management system)」である。家電機器の電力消費量を,専用のディスプレイで表示したり,利用していない部屋の空調機を停止させたり,またネットワーク経由で部屋の照明や空調機の運転を制御したりする。こうした家電機器の制御機能を電力メーターに組み込んだ「スマートメーター」も,米国では設置が始まっている。

ZigBee無線などを活用

 米国においてスマートメーターやHEMSに関する取り組みが活発なのは,大型鉄塔など送電網インフラの再構築に比較して,設備投資額が少なく済むからだ。新規設備投資を低減しながら温室効果ガス排出量を抑えたいという,米国の電力事業者のニーズに適合していた。例えば,カリフォルニア州北部で最大の電力・ガス事業者であるPacific Gas and Electric Co.(PG&E社)は,同社管内の約1000万個のメーターを,家電制御機能などを内蔵したスマートメーターに変更する予定である。

 PG&E社は既に,200万個以上のスマートメーターを設置済みである。これらのメーターには,家電機器を制御するための機能が組み込まれている。無線通信に関しては,2.4GHz帯および900MHz帯を利用するZigBee規格に準拠したRF回路モジュールなどが搭載されている。

 ZigBeeの最新仕様であるZigBee PROには,スマートメーターでの利用を想定したアプリケーション・プロファイル仕様「ZigBee Smart Energy」がある。同プロファイルでは,空調機の温度設定を変更するといった際の機器制御手順(プロトコル)や,時間帯ごとに電力料金が変わる際の最適制御手順などが記載されている。

 現行仕様は「Smart Energy Version 1.0」だが,2009年末~2010年前半に次世代仕様(Version 2.0)が策定される予定だ。「PG&E社は,Version 2.0が策定され次第,導入済みのスマートメーターのソフトウエアを最新仕様に更新する。そして,宅内の家電機器制御サービスを開始する方針だ」(PG&E社のコンサルタントを務める,米Wireless Glue Networks,Inc., CTOのJohn Lin氏)。

国内の技術資産を生かせ

 宅内の家電機器を無線や電力線通信で遠隔制御したり,各種家電機器の電力消費量をディスプレイに表示したりする技術に関しては,日本のメーカーに一日の長がある。日本では2000年前後,電力事業の自由化に関して盛んな議論があり,当時多くの電力事業者が家電メーカーなどとこうしたアプリケーションについて共同で検討を進めていたからだ。

 例えば四国電力が推進していた「OpenPLANET」や,家電メーカー各社が標準化作業を進めていた「エコーネット」といった技術の蓄積がある。エコーネット規格では,無線や電力線通信などさまざまな伝送媒体を使いながら,家電機器を遠隔制御するための伝送制御手順などが事細かに記載されている。米国など海外で既に始まっているスマートメーターに関する取り組みでは,こうしたノウハウを生かせる部分が少なくない。

†OpenPLANET=四国電力が1990年代後半から取り組んでいたスマートメーター活用プロジェクト。電力メーターにJavaの実行環境や家電制御機能を組み込むなど,先進的なサービスを志向していた。

†エコーネット(ECHONET)=家庭の設備系機器に向けたネットワーク接続規格。無線と電力線の利用を前提とする。ECHONETはEnergy Conservation(エネルギー節約)とHomecare(在宅介護) Networkの頭文字を取ったもの。

 現在,HEMSやスマートメーターについては,通信手法の国際標準化の議論も米国で活発に進んでいる。日本の技術資産が世界市場で有効に活用されるために,今こそ日本のメーカーは世界の標準化の場に打って出て,主導権を確保する活動を積極的に行うべきだろう。

―― 次回へ続く ――