COLLEGE 製造業の“本当”を探求
 

第3回:コア・ユーザーはあえて狙わない(上)

根津 禎=日経エレクトロニクス
2010/01/05 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2008年2月25日号 、pp.127-129 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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(前回から続く)
 

「アニメとかマンガ好きなの? じゃあ,この人を知ってますか?」
「もちろん。とっても有名な声優さんですよね」──。

 雪の札幌。クリプトン・フューチャー・メディア(以下,クリプトン社)の入社面接に現れた若い女性に,同社代表取締役の伊藤博之は手にした雑誌の写真を指さしながら聞いていた。喜々としてアニメやマンガの知識を披露する彼女を見て,伊藤はもう決めていた。欲しかった人材が目の前にいた。

「最優先で採用しよう。開発チームに必要なのは彼女だ」

 2007年1月に採用されたこの女性は入社後すぐに,同社 メディアファージ事業部の佐々木渉とCSP推進室の熊谷友介に引き合わされる。二人が2007年夏の発売予定で進めていた新製品の開発を手伝うためだ。

 この新製品──後に「初音ミク」という名で2007年8月末に発売されるパソコン向け歌声合成ソフトは,1000本売れれば成功といわれるDTMソフト業界で,2008年1月までの5カ月で累計約3万本を売り上げる大成功を収めることになる。伊藤はこの冬の入社面接に「運命を感じた」と振り返る。彼女こそが初音ミクを成功に導く,最後のピースだった。

0.5%はあえて狙わない

 クリプトン社がヤマハの歌声合成技術「VOCALOID」を使って開発し,2004年11月に発売した「MEIKO」は,その後2年以上も売れ続ける息の長い製品となっていた。そこでクリプトン社は,当時開発中だったVOCALOIDの次期版「VOCALOID2」を使った後継製品を計画していた。

 VOCALOIDは,スコアエディターに入力した楽譜や歌詞,音楽的な表情といったデータを基に,データベースに収めた「音声素片(音素)」を組み合わせ,歌声を合成する技術である。開発中のVOCALOID2は,「歌に含まれる息の音成分を再現するなど,より人の歌声に近づける」(ヤマハ イノベーティブテクノロジー開発部 サウンドテクノロジー開発センター グループマネジャーの剣持秀紀)ために,信号処理の方式から見直す大幅な改良を加えていた。

 VOCALOID2のデモを聞き,その進歩を確認した伊藤は「この完成度ならコアなDTMユーザーだけでなく,その周辺にいる“アキバ系のユーザー”を狙うべきだ」と考えた。

 伊藤の考えはこうだ。国内最大のDTM雑誌の発行部数が約10万部。活動的なDTMユーザーは,仮にこの5倍としても約50万人。日本の人口と比べたら 0.5%にも満たない。「0.5%の要求を満たす方がいいのか,それとも残りの99.5%に訴求する方がいいのか」(伊藤)。自問自答の答えは明らかだった。

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