安全・正確・快適のために

図3 メモレールの構成
寸法や精度を決めるのは,やはりT定規なのだ。
図4 計測の様子
片手でスーイスイ,押すだけ。

 このように,鉄道事業の安全・正確・快適性を保つために高精度な軌道計測は不可欠なものであるが,それを事業にしたのが,オーエークリエーションの庄司行宏社長だ。

 もともとJR東日本の設計技術者だった庄司社長,軌道計測でのニーズはお見通しだった。いわゆるUターンで故郷に戻って起業したのだが,そのことがずっと頭にあったようだ。なぜ,もっと簡単に,そして高精度にできる計測器がないのだろうか,と。そこで,現役時代に畑違いのため実現できなかった軌道計測器の開発にチャレンジしたのである。

 軌道の計測,その精度と頻度がもっと高度になるとどうなるか。言わずもがなではあるが,結果は明白だ。一番に安全性が高まる。それはそうだ。軌道が安定すれば安全運行ができるし,まして近年のように高速運転の時代になると余計に効いてくる。次に正確性が向上する。鉄道事業はダイヤが命だ。保線をしっかりとすれば,ダイヤが乱れることはない。もちろんダイヤが乱れる要因はほかにもあるだろうが,まずは足元の軌道に乱れがないことが前提だ。そして快適性が良くなる。これが旅行者にとって一番強く感じることだろう。揺れない静かな鉄道は文字通り快適だし,疲れたときにウトウトできる乗り物は多分,鉄道が一番ではなかろうか。

 そして,ついに庄司社長は,軌道を高精度で自動計測する「メモレール」という軌道検測装置を開発した。軌道を検査するために測定するので検測装置というのだが,装置はちょうど昔の図面を書くためのT定規のような形で,軌間エンコーダ,傾斜計,CCDカメラとターゲットで構成されている(図3)。

 図4のように,レールに載せて片手で押すだけで計測できるのだが,計測するのに水糸も治具も工具も要らない。エンコーダで距離を測って傾斜センサで角度を計測し,ターゲットをCCDカメラで撮影した画像とターゲットの基線の差,つまり変位を全天候型のパソコンで計測処理しているのである(図5)。検測の誤差は今までに比べると,何と1/10,わずか0.1mmである。データはすべてパソコンで処理してデータベース化するので,従来のように記帳する必要もない。デジタルデータを出力するので見える化できるようになる上,これまでベテランの技と経験に頼っていた軌道の修繕が,誰でも,より正確に,より速くできるようになる(図6)。畳んでしまうとクルマのトランクにも楽々と入る大きさの軌道検測装置,小さいながらもその仕事量は絶大だ(図7)。

図5 新装置のハードウエアの構成図
ターゲットの基線をCCDカメラで撮影して,基準値との差を検出する。
図6 出力グラフの例
図7 畳めばクルマのトランクにすっぽりと入る大きさ

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