技術経営 技術者が知っておきたい経営と市場の最新情報
 
多喜義彦
2009/12/15 00:00
出典:日経ものづくり、2008年9月号 、pp.227-231 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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 早朝や深夜,黄色に塗られた数両編成の新幹線を見掛けたことがある。「ドクターイエロー」と呼ぶのだそうだ*1。通常の新幹線と同じ速度で走行しながら,軌道,すなわちレールの凹凸やゆがみを計測する車両だ。ドクターイエローの中にはハイテク機器が満載され,新幹線と同じ速度で走りながらでも軌道の不具合個所が分かるようになっている。新幹線のほか,在来線でも同じような計測車が走り回り,鉄道の安全を守っている。

 しかし,不具合が分かった後はどうするのだろう。もちろん,すぐにその個所を直すのだが,「どのように直すか」そして「直した後はどうするか」が問題だ。そこで,本当に真っすぐになっているか,決められたこう配やカーブ(曲線)になっているか,軌間(2本のレール間の幅)は大丈夫かといった検査が行われている。この検査を「軌道計測」といい,今まで軌道計測はすべて,人力で行われていたのだそうだ。

 その軌道計測をカメラシステムで自動化し,従来の1/10の時間でできるようにした会社がある。文字通り,鉄道事業の縁の下の力持ち。軌道と共に,真っすぐに生きると決めた会社だ。

*1 ドクターイエローの正式名称は「新幹線電気軌道総合試験車」または「新幹線電気軌道総合検測車」。

鉄道大国ニッポンの保線技術

 国鉄,正式には日本国有鉄道は1949年(昭和24年),国有鉄道事業を運営するために設立された公共企業体である。資本金は全額,政府が出資し,運輸大臣の監督下にあった。その後,皆さんもご存じの通り,1987年4月に六つの旅客鉄道会社(JR北海道,JR東日本,JR東海,JR西日本,JR四国,JR九州)をはじめとする11の法人に分割民営化されたのである。

 国鉄自体,その晩年においては経営の悪化に伴う負債を抱えることとなったが,鉄道事業という国の重要なインフラを整備し,それを支えてきた功績は大きい。分割民営化された時の軌道総延長は2万kmにも及び,旅客輸送量はおおよそ2000億人キロ*2にもなったという。国民一人当たり1日に4.5km程度,鉄道を利用していたという計算になる。

 特筆すべきは,その安全性である。もちろん過去には事故もあるにはあったが,諸外国に比べると軌道の不具合による事故などほとんどないに等しいくらい,その安全性には定評があり,多くの人に楽しい旅を提供している。筆者も現在に至るまで,そしてこれからもJR各社にはお世話になるだろうが,過去に乗っていて怖い思いをした覚えはない。

 記憶に新しい経験では,数年前,広島から東京に戻る時に乗った新幹線が,突然,ガガガガッと音を立ててからヒューンというような感じで減速し,穏やかに停車したことがある。何が起きたのだろうと思ったが,特に危険な感じはしなかったし,新幹線が急停止したわけでもなかった。後で,それが震度6を記録した2001年の芸予地震によるものだと知ったのだが,その事実よりも,むしろ新幹線の安全制動技術に感動したことを覚えている。

 今思うと,そのようなとき安全に停止するためには,まずは軌道の精度が重要であるはずだ。せっかく,地震センサが配置されて緊急停止装置が働いても肝心要の軌道がデコボコだったら,かえって地震の振動が増長されるかもしれない。

 このように,旅客は気にしないし,する必要性も感じない保線技術。それを支えるのは一にも二にも,軌道計測の精度とその頻度であろう。少しのズレも見逃さない計測技術はもちろん,その頻度も重要だ。計測して直したといっても,線路には毎日,旅客列車や貨物列車の荷重がかかっているのだから,軌道は常に変位し続けていると言える。だから,同じ所を何度も繰り返して計測することが必要なのだ。

*2 人キロ 旅客の人数と,その旅客を輸送した距離(km)を掛け合わせた単位。例えば,旅客1人を1km輸送したときに「1人キロ」という。

軌道計測の苦労

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