設計意図を確実に伝えることが可能な,曖昧さのない図面を作成するために幾何公差が必要であることは分かっていても,幾何公差に取り組みことを躊躇する技術者は少なくない。正しく幾何公差を活用するためには覚えなければならないルールが多いからかも知れない。しかし,一つひとつはそれほど難しいことではない。ここでは,幾何公差に関する基本的な考え方や表記方法について説明する。

公差記入枠とデータムの指示

まずは公差記入枠の記載ルールだ。公差記入枠とは,幾何公差を記入するための長方形の枠で,この中に記号や数字を記して公差を指示する〔図1(a)〕。

図1●公差記入枠と付加記号
(a)のように,左端の区画に幾何特性記号を記入し,その右隣の公差域と呼ぶ区画に直径記号や球記号,公差値,付加記号を記載する。さらにその右隣の領域で,必要に応じてデータムや付加記号を指示する。付加記号には(b)のようなものがある。

一般に幾何公差は,幾何特性記号および付加記号の2種類の記号と公差値で表現される。幾何特性記号は,指示した公差が何を規制するかを示すもの。詳細は後述するが,真直度,平面度,真円度,平行度など19種類がある。

付加記号は幾何特性記号で指定した規制を,どの形体に適用し,どの寸法公差と関連付けるのか,基準となる面や線(データム)はどこか―などを示す〔図1(b)〕。公差記入枠もこの付加記号の一つと規定されている。実際の図面では,この枠を幾つも重ね合わせたり,その周りに,形体の個数や大きさ,凸は許さないといった形状の品質などを記入したりして使用する。

公差記入枠は,三つの区画に大別できる。一番左の区画は,幾何特性記号を記入する領域。その右隣の区画には,公差域と呼ばれるバラつきの許容範囲を記入する。さらにその右隣には,姿勢や位置,振れの公差を指示するときに参照する面や線(データム)を指示する領域となっている。基本的には,この公差記入の右側または左側に指示線(引き出し線+参照線)を付けて,矢の先を形体や寸法線と結び付けて指示する。

公差記入枠の付け方と並んで,幾何公差を理解する上で押さえておきたい付加記号の一つが,データムの指示方法である。データムとは,姿勢や位置,振れの公差を指示するときに,その公差域を規制するために設定した理論的に正確な幾何学的基準のことをいう(図2)。データム点,データム直線,データム平面,データム軸線,データム中心平面などがある。

図2●データム平面の定義
データムとは公差域を規制するための基準となる点や線,面。実際の点や線,面ではなく,理想的なものを想定する。データムを適用する実際の点や線,面をデータム形体,データムを設定するための定盤やVブロックなど,現実の物理的基準を実用データム形体と呼ぶ。

データムには,データム三角記号を使用した指示方法と,データムターゲット記号を使用した指示方法の2通りがある。例えばデータム三角記号を使用してデータムを指示するには,三角記号から伸ばした直線と,データム文字記号が入った正方形の枠とを結び付けて表す。

データム三角記号の形体への指示の仕方は,基本的に公差記入枠と同じで,形体の違い(外殻形体と誘導形体)によって2種類ある。線や表面などの外殻形体に指示する場合は,形体の外形線上もしくはその延長線/寸法補助線上に三角記号の底辺を当てるか,指示線を対象物の外形線の内側に小さな黒丸を結び付けて指示し,参照線の部分に三角記号の底辺を当てる。中心線や中心面といった誘導形体に指示する場合は,寸法線の延長線上に三角記号の底辺の中心を置く。

優先順位をつけた二つ以上のデータムを組み合わせて用いるデータムのグループのことを「データム系」と呼ぶ。その中でも,互いに直交する三つのデータム平面によって構成されるもののことを「3平面データム系」という。3平面データム系に用いるデータムは,その優先順位に従って第1次データム平面,第2次データム平面,第3次データム平面という(図3)。

図3●3平面データム系の指示例と解釈

データムの優先順位は,部品の組立順や加工機への取り付け順などに置き換えて考えればよい。つまり,三つのデータムの中で一番初めに組み合わせる面を第1次,次に組み合わせる面を第2次,最後に組み合わせる面を第3次とするのである。冒頭のように,組み立て順によって組み付けられたり,組み付けられなかったりするのは,3平面データム系が製作や組み立て,検査に影響を与えることを暗示している。

3平面データム系は,一般的に位置の公差(後述の位置度公差や輪郭度公差)を指示する際,その部品の動きを固定するために用いる。3次元空間内での移動と回転という六つの自由度を拘束するよう設定するのだ。