COLLEGE 製造業の“本当”を探求
 

第2回:日本を席巻した非接触ICカード,開発のきっかけは「宅配便」(下)

浅川 直輝
2009/11/19 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2007年5月21日号 、pp.103-104 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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(前回から続く)
「FeliCa」のチップ,OS,リーダーの開発を担当した日下部進氏。現在はソニーを退社し,三菱商事 イノベーション事業グループ メディア・コンシューマー事業本部 ビジネスクリエーションユニット チーフアドバイザーを務める。(写真:いずもと けい)

1年で開発できるなら

 FeliCa開発のもう一人の立役者である日下部進は,そのころ伊賀と同じく厚木の情報処理研究所の所属だった。伊賀が6階,日下部が3階にいた。日下部は1981年にソニーに入社し, FA(factory automation)向け画像認識技術や,リアルタイムOSなどの開発を手掛けた。その後情報処理研究所に移り,8ビット・パソコン「MSX」やワープロの開発に携わる。1988年当時は,放送局向け画像処理装置の開発部門に所属していた。

 1988年2月,日下部を含む同部門の数名の技術者は,伊賀から無線ICカードの開発チームに誘われた。

 「もうICチップは半導体部門に発注済みで,数カ月でサンプルが届く。君にはその間,カード・リーダーを試作してほしい。まあ1年くらいで事業化できると思うから,その後は元の部署に戻っていいよ」

 自信たっぷりな伊賀の話しぶりに,日下部は「1年くらいなら」と,開発チームへの参加を了承した。実はその10倍以上の期間,無線ICカードの開発にかかわるとは知らずに…。

コストが2ケタも違う

 日下部が開発チームに加わって3カ月がたったころ,伊賀が発注したICカードが研究所に届いた。

 「これは,ひどい」。日下部が試作したリーダーで読み取りを試みた二人は,落胆を隠せなかった。ICカードが反射する信号が,まるで検出できなかったのだ。

 問題は山ほどあった。ICカードからの反射波に混入した雑音が大きすぎる。ICに作り込んだリング・オシレータの発振周波数が10倍以上変動する…細かい問題を挙げれば切りがない。

 だが,こうした技術的課題を通り越して,どう考えても解決できない問題があった。ICカードのコストである。伊賀に開発を依頼した宅配業者は,ICカードの価格を「バーコード伝票と同じ1枚10~20円にしてくれ」と要求していた。伊賀は「面積1mm2のICチップなら,1個10円くらいで作れるだろう」と楽観視していた。

 だが実際に試作してみると,ICチップ1個当たりの価格は100円を超えることが分かった。それだけではない。カードに封入できる薄型ラミネート電池は600円もする。これにICやアンテナの実装などもろもろを含めると,1枚当たりのコストが最大2000円に膨れ上がった。顧客の要求と,ケタが二つも違う。「こんなコストじゃ,配送システムに応用するのは絶対無理ですよ…」。日下部の恨み節に,さすがの伊賀も返す言葉がなかった。

新聞記事との出合い

 宅配業者の依頼は断らざるを得なかった。それでも伊賀は,無線ICカードの開発を続けた。この技術の用途は幅広い。伊賀はそう信じていた。

 朗報はすぐ届いた。開発チームの一人が、ある新聞記事を携えてやって来た。「こんな記事を見つけたんですけど。ウチの技術,使えませんかね」。

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