富士通は,ノートパソコンの筐体においてバイオプラの採用を進めている。ノートPCの筐体では,耐熱性と難燃性の両方を確保する必要がある。素材を分子レベルで見直すことにより,この両立を達成した。

 ノートPCの筐体では,難燃性の指標である「UL-94規格」で「V-1」レベルが必要となる。一般には,ポリカーボネート(PC)とアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)のアロイ(PC/ABSアロイ)が用いられる。

 富士通はそこにポリ乳酸(PLA)系のバイオプラを採用した。2005年の春モデルである「FMV-BIBLO NB80K」を皮切りに,2009年の夏モデル「同NW/90C」まで,既に計13機種の筐体にPC/PLAアロイを採用してきた()。

図●筐体にPC/PLAアロイを適用した富士通のノートパソコン「FMV-BIBLO NW/90C」
六つの射出成形部品にPC/PLAアロイを適用している。

 しかも,その過程で適用部位をどんどん拡大してきた。当初のNB80Kでは,ロアカバーと呼ぶ本体底面と,バックカバーと呼ぶ液晶パネルの裏側に相当する天板部分のみ。それが,NW/90Cではアッパカバー(本体上面側)を除く筐体すべてへの適用となった。実に「ノートパソコンで使うプラスチックの70質量%」(富士通研究所基盤技術研究所環境技術研究部主任研究員の木村浩一氏)もの部分を,PC/PLAアロイに置き換えたのだ。

nmオーダーのシリコーンを分散

 前述の通り,ノートパソコンの筐体でバイオプラを使うには,耐熱性と難燃性を両立させねばならない。そこで,富士通グループと出光興産が共同で開発したのが,シリコーンとPCの共重合体をPLAとアロイ化したバイオプラだ。シリコーンとPCの共重合体を利用することで,PCの“海”の中にPLAの“島”とnmオーダーのシリコーンを分散させた。同アロイでは,表面に火が付くとシリコーンが表面に移動し,シリコーンとPCが複合化した炭化層が形成され,燃えにくくなる。

 これにより,1.5mm厚でV-1の難燃性レベルを確保しながら,耐熱性を低荷重(0.455MPa)で120℃,高荷重(1.820MPa)で110℃まで改善。画面サイズが16インチ型という大型ノートパソコンにおいても,フロントカバー(液晶パネルの枠部分)やバックカバーへのPLA系バイオプラの適用を可能とした。

本シリーズは,日経ものづくり2009年8月号特集「こんなに使えるバイオプラのすべて」(pp.36-61)を大幅に加筆・修正したものです。(記事は同特集執筆時の情報に基づいており,現在では異なる場合があります)