(前回から続く)
タイトル
図1■北海道工業大学を中心に開発された超小型衛星「HIT-SAT」
本体は1辺が12cmの立方体で,重さは2.7kgである。

 多くのエレクトロニクス・メーカーが人工衛星をビジネスに生かせるようになる日が近づいている。人工衛星をさまざまな企業が当たり前のように所有する時代が到来するのである。将来は,車を持つのと同じように,企業が「社用衛星」を保有するようになるかもしれない。同時に,エレクトロニクス・メーカーにとっては,衛星本体のメーカーや,衛星に部品を供給する部品メーカーとしてのビジネスチャンスが大きく広がるだろう。

 これを可能にするのが,重さが100kg以下で1辺が数十cm程度の人工衛星,いわゆる「超小型衛星」である(図1)。超小型衛星は開発コストが1億~2億円と安く,開発期間が1~2年と短いという特徴を持つ。日本だけでも15基以上が,これまでに打ち上げられている。

 従来の人工衛星は,重さが数トンで,開発コストは数百億円と高額で,かつ開発期間が5年程度と長かった。開発費がかさむと,誰もがおいそれと所有できるものではなくなる。このため,人工衛星のユーザーはこれまで,国や通信事業者,放送事業者などに限られていた。

 超小型衛星の登場は,この構図を一変させる可能性を秘める。所有のハードルが劇的に下がるため,地球上のあらゆる業種の企業が人工衛星を持つことすら夢ではなくなる。

開発では日本が先行

 多くの大学や研究機関などが数年前から超小型衛星の開発に取り組んでいる。この結果,超小型衛星に必要なノウハウが蓄積されるとともに,問題点の抽出なども進んできた(図2)。こうした状況が,超小型衛星をビジネスに生かそうという機運が高まってきた背景にある。

タイトル
図2■超小型衛星の位置付けの変化
2002~2003年には,超小型衛星の打ち上げそのものが主な目的だった。その後,大学などの参入機関が増えるのに伴って関連技術が向上してきた。今後は,企業による本格的な活用が進む。

 実は,超小型衛星の開発では,日本が世界的に先行している。1辺が10cmの立方体で重さ1kgの人工衛星,いわゆる「キューブサット」を開発し,世界で初めて宇宙に打ち上げたのは日本の二つの大学である。「XI-IV(サイフォー)」を開発した東京大学と「CUTE-I(キュートワン)」を開発した東京工業大学だ。2003年6月,これら2基のキューブサットが同時に打ち上げられた。いずれも学生が独力で作り上げたものだ。