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電子ペーパーの未来

第3回:電子ペーパーによって“ラッピング”された世界

2009/08/18 00:00
福田 光弘=電子ペーパーコンソーシアムRG3(メディア論研究グループ)副主査,コニカミノルタテクノロジーセンター
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 ケータイの外装色や模様を,その日の気分で変えられたらどうだろうか? あるいは,家族や友人への贈り物に自由にメッセージを添えて,それを日ごとに変えて気持を伝えることができたら? 家のドアがあなたのスケジュールを表示して,家族に今日は遅くなると伝えるのを思い出させてくれたとしたら?

あらゆるモノの表面を,電子ペーパーで覆う

 電子ペーパーによってあらゆるモノの表面が覆われ,モノの表面が表示体として情報を提示することで,電子ペーパーが物理空間と情報空間という,私たちの生きる二つの生活空間の接点となる世界――。そのような世界への変化を,電子ペーパーコンソーシアムは「ラッピング革命」と名づけた。それはモノがモノであると同時に情報メディアとなる世界であり,私たちが情報を取得するたびごとに鞄やポケットから「そのために作られた特別な機器」を取り出す必要のない世界である。

 そのような世界では,私たちを取りまく情報は電子ペーパーによって可視化される。しかも反射型表示体である電子ペーパーは,光を発するこれまでの電子ディスプレイと異なり,ことさらに人目を惹きつけることがない。それはまさに紙のように情報表示を行う,生活空間になじんだアンビエントな表示体として機能するだろう。

 もちろん,このような世界が到来するためには,電子ペーパー以外にも様々な技術が必要となる。現在提案されている「電子ペーパー技術」の多くが,書き換え時のほかはほとんど電力を消費しないとはいえ,電源が不要になるわけではない。また,電子ペーパーに表示する内容を供給するためのストレージや無線通信の技術,目指す相手に確実に情報を届けるためのユーザー認識・認証技術も必要になる。環境負荷の低い製造技術も重要であろうし,世界を覆うほどに電子ペーパーが生産されるのであれば,そのリユースやリサイクルの技術と仕組みが求められるだろう。「ラッピング革命」はこうした技術が連携して,社会的インフラストラクチャを形成することによって実現される。

ラッピング革命後の世界の例
「ラッピング革命」後の世界の例
電子ペーパーを備えた窓・エアコン・衣服がコミュニケートと情報提示を行い,生活環境を整える。

 そこでは,単に「機器のディスプレイを覗き込まずに済んで便利だ」というだけではない,人間と情報とのより自然な関係が成立する。モノにまつわる情報がモノ自体に宿っており,それをいつでも呼び出すことができる。ヒトとモノとのコミュニケーションが発生するだけでなく,モノを媒介にした人間どうしの豊かなコミュニケーションの世界が広がるだろう。

 モノがヒトに,自分の状態や来歴,生産者の思いやこだわりを伝える。モノの表面を「ラッピング」した電子ペーパーに想いをしのばせて,家族や友人に手渡すこともできる。同じモノを使っている見知らぬ誰か,これを自分に薦めてくれた友人からのメッセージによって,ヒトとヒトの間を取り持つこともあるだろう。「ラッピング革命」は私たちの自己表現とコミュニケーションの可能性を広げ,人と人のつながりを豊かに支える基盤になると考えられる。

 一方,「ラッピング革命」は私たちの生活に好ましくない影響を与えるかもしれない。「ラッピングされた」衣服によって外見を変える犯罪者,注意喚起されにくい外観の人やモノによる事故,そこらじゅうの表面という表面がメッセージを発することによる「視覚的ノイズ」……。世界はひどく騒々しく,物騒になるかもしれない。また,建物の外観が可変であるがゆえの景観問題や,適切な情報提示を行わんがための個人識別とプライバシーの関係,絶え間のないデータの取得・蓄積と検索性がもたらす個人の追跡などは,社会的な議論を呼び起こすだろう。

 さらには,私たちの周りのモノが「何色のどのような外見をしているか」可変であることが,私たちが周囲の世界に対して持っている認識を不安定にしてしまうかもしれない。そのような世界で,私たちはどのように「世界は,このようなものである」という認識を確保するのだろうか。それとも,そのような認識は必要でなくなるのだろうか?

電子ペーパーによって変化する,人と情報の関係

 われわれは「ラッピング革命」を将来仮説として提示し,そのインパクトや技術的・社会的チャレンジを議論してきた。単に技術的な可能性を追求するばかりでなく,技術がもたらす諸問題についてあらかじめ議論することで,人と情報の関係をより幸福なものにしていくことができると考えたからである。

 「ラッピング革命」という将来像は一見すると荒唐無稽に思われるかもしれないが,実はそこにある問題は現在の私たちをとりまく情報・メディアの問題が,より先鋭的に現れた姿でもある。コンソーシアムでは今後も,電子ペーパーとそれによって変化する私たちと情報の関係について議論していきたいと考えている。より広く開かれた議論を喚起する目的で,今年度のコンテストには論文部門(募集要項)も設けているので,情報メディアに関心のある方々からの考察や新しい視座の提供に期待したい。

参考文献
「平成20年度電子ペーパーコンソーシアムRG3活動成果報告書」(PDF)

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