携帯電話機で手軽にメールをやり取りしたり，ニュースや天気を見たり，ゲームや音楽をダウンロードして楽しんだり――。今や，日本国内だけで7500万人以上，中国では1億人を超える人々が，携帯電話機でインターネットを利用している。携帯電話のインターネット・サービスを世界に先駆けて事業化したのが，NTTドコモの「iモード」である。1999年2月のサービス開始と同時に，待ち受け画像や着信メロディなどのコンテンツ・サービスが立ち上がった。サービス開始直後は低調が続いたものの，対応機種の増加と共に契約数はウナギ登りに増えていく。普及は予想をはるかに超えるペースで進み，1990年代の停滞した日本経済の中で，ひときわまばゆい光彩を放つ20世紀最後の大ヒットとなった。
このiモードを事業化にこぎ着けるまでの開発物語を，日経エレクトロニクスが2002～2003年に掲載している。本連載では当時の記事を再掲載する。
出典：2002年8月26日号 ～2003年2月17日号 日経エレクトロニクス
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
鎌田富久が永田清人に対面してから1年半。艱難辛苦（かんなんしんく）を乗り越えて，各メーカーは端末を世に送り出した。予想を上回る成功を収めた技術者たちは，次なる目標に向け挑戦を続ける。
1999年1月25日。広末涼子がF501iを手に登場した。「3年後に1000万件の加入を目指す」。榎の号令で，いよいよiモードが始まる。
富士通に遅れを取るな。三菱電機の濱村は闘志を燃やした。バグ取りに苦戦する松下通信工業。開発の遅れは，製品の特色で取り戻すしかない。
発売は1999年2月。ゴールは先に延ばされた。それでも間に合わないと焦る技術者たち。各メーカーで少しずつ，進捗状況に差が出始める。
交換対向試験に一番乗りしたのは，和田浩美ら松下通信工業の開発陣だった。敗れたNECは製品で巻き返しを図る。西山耕平は徹底して情報の漏洩を防いだ。
鎌田富久の執念は実を結びCompact HTMLはW3Cに受け入れられた。しかし，本当にこの開発は成功するのか。技術者は暗いトンネルの中でもがいていた。
後塵を拝し猛追する富士通と三菱電機。追随者の存在を後目に，松下通信工業はブラウザの内製を決断する。
発売まであと1年，試作は思うように進んでいなかった。予定通りの製品化を目指すNTTドコモは富士通と三菱電機にも声を掛ける。
試作開始から間もなく，永田清人から1本の電話が。突然の知らせに，鎌田富久は言葉を失った。
試作が決まりメーカーに連絡が入る。時は携帯電話の全盛期，技術者の反応は冷静だった。
ノート・パソコンの画面上で小さなブラウザが動いた。これを見た永田清人は，1つの決断を下した。
「iモード」開発の経緯を綴った自著を，松永真理はこう書き出している。「いつのころからか，iモードの生みの親と呼ばれるようになった。そのたびに，首を傾げながら『私ひとりが生んだわけではありませんから』と訂正を入れる」