加藤 敏春 氏
加藤 敏春 氏
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 それは,ネットワークの規模で比較すると一目瞭然です。スマートグリッドの規模のほうが,インターネットと比較して100倍~1000倍は大きくなります。例えば,現在においても,インターネットのアクセス環境の無い家庭はたくさんある。しかし,電力網が行き渡っていない家庭はほとんどありません。さらに,スマートグリッドに接続される機器は,パソコンやルーターといった情報機器にとどまらない。電力を利用するすべての機器が,ネットワークのノードになる。この巨大なネットワークの誕生と言うものが,インターネットを凌駕するほどのイノベーションが創造されるという根拠です。これは一種のパラダイム変化と言えるでしょう。

――加藤さんは,この「スマートグリッド」の大きな変革は,米シリコンバレー地域から始まると指摘しています。シリコンバレーとスマートグリッドには,どのような関係があるのでしょうか?

加藤氏 スマートグリッドによる革命は,米国の中でも,環境先進地域のカリフォルニア,特にシリコンバレーを基点に始まっています。私はそこに,スマートグリッド革命の本質を解くカギがあると睨んでいます。

環境問題という「外圧」

 私は,この15年間のインターネットの爆発的な普及によって引き起こされた変革というのは,シリコンバレー地域の持つ「内圧」によって誘発されたと考えています。ここで「内圧」というのは,「技術主導のパラダイム変革」という意味です。これまで,インターネットやIT分野の進化というのは,技術主導による生産性の向上が中心でした。シリコンバレー地域に内在する様々な要素技術が実用化されることで,IT分野に目覚しい生産性向上をもたらし,その結果ビジネスや社会を変革していった。すなわち,技術主導の「内圧」というわけです。内圧をもう少し詳細に述べると,各種の要素技術(半導体,コンピューター,材料,ナノテクノロジー,ソフトウエア)の飛躍的発展がその基礎になっています。現在シリコンバレー地域では,こうした要素技術が,太陽電池や燃料電池,情報制御技術などのシステム技術として組み合わされながら発展していく段階にあります。

 ところが,これからはこの状況がさらに大きく変わります。「外圧」が加わってくるんです。ここで外圧というのは,地球温暖化対策を意味します。今年は「COP15(国連気候変動枠組み第15回締約国会議)」が開催されるなど,温室効果ガスの削減や省エネルギーが世界的な課題になってきます。これまで同様に化石燃料に頼った生活や社会基盤は成り立たなくなる。特に米国の場合にはエネルギー安全保障上の観点から,石油依存の体質からできる限り脱したいという強い意向が働いています。