2011年までの実施は前途多難

 ソフトウエア新方式と以前の新RMPとの違いは,「仕様は一から作り直し,今回はセキュリティーの点で新RMPより簡易で低コストなものにする。それでしばらく運用して,もし課題が出てくれば,制度的な対処方式を考える」(デジコン委のある放送事業関係者)という点。つまり,セキュリティー技術を柱にした上で法律を補完的に考えるという折衷案である。メーカー側の関係者も「ライセンスの発行機関は,暗号鍵を管理するだけの簡素な組織がよい」(日立製作所の田胡氏)などと,技術を基に低コストで開発・運用できるものにするという点で一致する。

 ただし,現行案がこのまま実施されるには,ハードルがいくつも待ち構えている。具体的には,暗号方式やライセンス発行機関の詳細の決定,メーカーと放送局のコスト負担の配分などの決定,そして「サイマルクリプト」と呼ばれるB-CAS方式との併用方式を採ることによる放送局の設備の改修といった課題をクリアしていく必要がある(図6)。

図6 しばらくはB-CAS方式とソフトウエア方式が並存へ
図6 しばらくはB-CAS方式とソフトウエア方式が並存へ
現時点で提案されているのは,従来の新RMP方式に似たソフトウエア方式。「サイマルクリプト」と呼ぶ,放送局で暗号化システムが複数あっても,受信側はどちらか一つの暗号で復号できる技術を用いる。

 さらには,「NHKの意向が影響するかもしれない」(ある関係者)という指摘もある。簡易な方式を採用すると,NHKへの登録を促すメッセージの表示を受信機ごとに制御できない可能性があるからだ。このメッセージは現在,BSデジタル放送のみで表示され,地デジでは使われていない。ところが,NHK自身は受信料不払い者の捕捉のために,地デジにもメッセージを表示する意向を持っている注3)

注3) 例えば2009年3月30日の国会答弁でNHKは,「(地デジでのB-CASカードを使ったメッセージ表示に関しても)受信料の公平負担という観点から,その実現に向けてあらゆる方策を検討している」と述べている。

 こうしたことから,「ソフトウエア新方式の実施までにはかなりの時間がかかる」(ある関係者)という意見が多い。2011年のアナログ停波に間に合わせるのは難しいかもしれないとの見方もある。