約6年越しで続いている見直し議論の内容は,不正コピー防止の仕組みを実装しない無反応機を,市場から排除する仕組みをどのように取り入れるか,というものである注2)。これは二つの方法に大別できる(図4)。

注2) B-CAS方式見直しの関係者はこのための対策を「エンフォースメント(enforcement)」と呼んでいる。

図4 身動きが取れないB-CAS方式の見直し議論
図4 身動きが取れないB-CAS方式の見直し議論
B-CAS方式の見直しは,技術を強化する策も,法律を強化する策も反対者が多く,議論をまとめるのは容易でない。

 一つは,セキュリティー技術の強化によって,メーカーがライセンスなしでは動作する製品を作れないようにする方法。現行のB-CAS方式自体も,この方向に沿う方法である。ところがこの方法では,受信機の認証にカードを使うにせよ,ソフトウエアを用いるにせよ,フリーオのような無反応機に対処するためにセキュリティー技術の強化が避けられない。これでは受信機メーカーの製造コストが上がるのはもちろん,放送事業者にとっても,現行のB-CAS方式の課題の一つであるライセンスの発行組織の運用コストが,より大きくのしかかる。

 もう一つの方法は,制度に基づく方法,すなわち法律や規制によって無反応機の販売を禁止し,市場から締め出す方法である。これを実現できれば,放送コンテンツのスクランブル自体不要になるというメリットがある。一方で,さまざまな規制によってメーカーが縛られ,商品企画の自由度がなくなるという課題がある。

 過去6年間の見直し議論のうち,当初の約4年間はまず,セキュリティー技術の改良に基づく方向で議論が進められた(図5)。当時,「新RMP」と呼ばれた,ソフトウエア技術による方式は「受信機の規格はほぼ完成していた」(日立製作所 コミュニケーション・法務部 部長で,デジコン委 技術検討ワーキンググループ委員の田胡修一氏)という。ところが,ライセンスや暗号鍵の発行機関を設立する段階でそのコストなどを巡って放送事業者などの議論が暗礁に乗り上げ,2007年末に頓挫した格好になった。

【図5 5年以上も続く議論,完了時期は不透明】B\-CAS方式の見直し議論は,B\-CASが正式に始まる前から進められている。当初は技術と契約による問題点の解決を目指していたが,2007年12月に断念。2008年9月からは法律による解決を目指したが,すぐに方針を変更し,現在は再び技術ベースの解決策が提案されている。
図5 5年以上も続く議論,完了時期は不透明
B-CAS方式の見直し議論は,B-CASが正式に始まる前から進められている。当初は技術と契約による問題点の解決を目指していたが,2007年12月に断念。2008年9月からは法律による解決を目指したが,すぐに方針を変更し,現在は再び技術ベースの解決策が提案されている。
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 その後,2008年9月からデジコン委を舞台に,法律だけで対処する方向が議論された。しかしこれも,規制強化の内容にメーカーが強く反発したことなどでたちまち頓挫した。結局,わずか2~3カ月の間にデジコン委の議論の方向が180度変わり,最終的には再びソフトウエア技術に基づく新方式の導入案に固まった。