誰もがB-CAS方式に不満

 こうした方針を決めたのは,総務省 情報通信審議会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」(デジコン委)の技術検討ワーキング・グループ。同委員会 座長で慶応義塾大学 教授の村井純氏は,こうした見直し議論を進めている理由を「B-CAS方式の制約がいくつか指摘されるようになってきたことが背景にある」と説明する。実際,消費者やメーカー,放送事業者,そしてコンテンツ事業者はいずれも,現行のB-CAS方式に何らかの不満を抱いている(図2)。

図2 現在のB-CAS方式の問題点
図2 現在のB-CAS方式の問題点
消費者だけでなく,チューナーやテレビ,携帯電話機のメーカー,放送事業者,そしてコンテンツ・プロバイダーからも見直しの声が上がっている。

 例えば,車載用の地デジ・チューナーのメーカーや携帯電話機メーカーにとって「B-CASカードは大きすぎる」(ある車載チューナーのメーカー)のである。現行の1セグメント放送(ワンセグ)対応だけでなく,12セグメント放送(フルセグ)対応の携帯電話機が登場するのは時間の問題とされる。ところが「今のB-CASカードでは,大きすぎて携帯電話機に挿入するのは無理」(ある携帯電話機メーカー)というのも明白である。

 また,地デジの放送事業者にとっては,もともと有料放送向けに開発されたB-CASカードの仕組みが無料広告放送に流用されたことによる運用費増が負担となっている。現時点で1枚約800円するB-CASカードの発行費用は,受信機のメーカーと放送事業者が負担している。このうちメーカーの負担は1枚100円で,残りは放送事業者,しかもその2/3は民間の放送事業者が払っている注1)。地デジが普及するほど,この負担は増える。

注1)残りの1/3はNHKが負担。2008年度は約60億円を民間の放送事業者が負担した。

 見直しの議論にとって決定的となったのは,2007年11月に出現した無反応機「フリーオ」である。無反応機とは,受信映像の不正コピーを防ぐ仕組みを備えていない受信機のこと。これによって,無反応機を防ぐための仕組みとして採用されたB-CAS方式を,何らかの形で見直すことが不可避になった。

†フリーオ=台湾のメーカーが開発したとみられる,ISDB-T方式対応のチューナー。B-CASカードの暗号鍵情報をインターネット上のサーバーから取得して,スクランブルを解除する。不正コピー防止の仕組みを搭載していないため,放送されたMPEG-2のTSデータをそのまま記録できる。