「思ったよりずっと小さい。部品も少ないな」「無理をしている部分が見当たらない」「部品の使い方がツボを押さえている」――。任天堂が発売したゲーム機「Wii」のメイン・ボードを見た技術者は,口々にこうした感想を漏らした。
Wiiの外形寸法は「DVDケース三つ分」ほどの44mm×157mm×215.4mm。電源はACアダプタで供給するので,筐体に収まるのはメイン・ボードとスロット・ローディング方式の光ディスク装置だけ。メイン・ボードの寸法は132×195mmとA5判よりも少し小さい。ここにWiiの中核機能がまとまる。
設計の面から見たWiiの特徴を一言で表すと「完成度の高さ」となる。徹底的に低コストを狙いながら,必要な部分には惜しみなくコストを掛ける。そのバランスを慎重に検討した跡がうかがえる。
シールド板で基板をサンドイッチ
Wiiの筐体にはY字形の溝を持つ特殊なビスが4カ所に使われており,開くには専用の工具が必要になる(図1の左下の写真)。これ以外に通常のプラス・ドライバで外せるビスも併用されている。すべてのビスを抜き取るとカバーが取り外せる。現れるのは光ディスク装置を覆うシールド板。光ディスク装置の下には別のシールド板があり,メイン・ボードはさらにその下に組み込んである。メイン・ボードの裏にはもう1枚のシールド板がある。
このようにWiiは,光ディスク装置とメイン・ボードを3枚のシールド板で挟み込んだサンドイッチ構造になっている(図1)。電磁雑音の遮蔽に重点を置いた設計であるのは一目で見て取れる。
特に,メイン・ボードを挟むシールド板は,上下から基板をぴったり覆う形状になっており,ほとんど穴がない。基板とシールド板は多数のビスでがっちり固定されている。メイン・ボードから外への配線は光ディスク装置につながる電源ケーブルおよび信号線フラット・ケーブルと,前面パネルに組み込んだLEDにつながるケーブルのたった3本。ある部品メーカーの技術者は,「デジタル家電で電磁雑音の対策をここまでやるものは多くない。ノート・パソコン並みの厳重さ」とコメントする。
強制冷却は主要チップだけ
巨大な冷却ファンやヒートシンクを備える「プレイステーション 3(PS3)」に比べると,Wiiの冷却機構はかなり簡素である(図2)。約3.5cm角のファンを本体の背面側に装備し,前面にある光ディスクを挿入するスロットと,底面の開口部から空気を吸い込み,ヒートシンクを経由して背面の開口部から排出する構成になる。
このヒートシンクは米IBM Corp.製のマイクロプロセサ「Broadway」と,カナダATI Technologies Inc.が設計し,NECエレクトロニクスが製造する描画回路,DRAM,周辺回路を統合したMCM「Hollywood」を冷却するように取り付けられている。
簡素な冷却機構で済む理由は,BroadwayとHollywoodの消費電力が小さいからだ。例えば,90nmルールで製造されるBroadwayの動作周波数の推定値は729MHz,チップ面積は18.9mm2である。PS3が採用したマイクロプロセサ「Cell」も90nmルールで製造されるが,動作周波数3.2GHz,チップ面積228mm2と,Broadwayと比べるといずれも1ケタ大きい。製造プロセスが同じであれば,動作周波数が高くチップ面積が大きいほど消費電力が大きくなる。
―― 次回へ続く ――