気付けば読書端末に

 こうした(1)~(3)の変化は携帯電話機の読書端末化を進めるために起こったわけではない。むしろ主目的は,カメラ機能で撮影した映像を美しく表示したり,撮影した写真データの保存枚数を増やすためだった。その結果,携帯電話機が読書端末として十分に使える性能を獲得したのだといえる。

 これと同様のことが,電子辞書端末でも起きている。現在,電子辞書端末メーカー各社は,電子辞書端末を積極的に電子書籍に進化させようとは考えていない。これまで電子辞書端末は「辞書」にひたすら特化することでユーザーの支持を集め,市場を拡大してきたからだ。不要な機能を一切排除し,辞書を引くための専用ボタンを付けて操作性を高めた。そしてハードウエアの原価はできるだけ抑え,有力な辞書コンテンツの収録に力を注いできた。

 しかし,他社との差異化競争の中でこうした路線を突き進むうちに,いつしか電子辞書端末は読書端末として機能する十分な性能を備えつつある。例えば画面の表示能力や,書籍データを後から入れ替えたり追加したりする機能である注11)

注11)昨今,電子辞書端末の操作性が向上したことで,辞書を「引く」のではなく,「読む」使い方がユーザーに広がっている。電子辞書端末が備える検索機能や,見出し語のリンク機能を使って文言を次にたどり,辞書を読み進める。いわゆるネット・サーフィンに似ていることから,このような使い方を「ワード・サーフィン」と表現することがある。

表示能力は文庫本に迫る

 電子辞書端末メーカーが画面の表示能力を高めているのは,1画面に表示できる文字数を増やすことが,商品の付加価値を高めるからである。その方が情報を一覧しやすく,画面のスクロール回数を少なくできる。

 この流れに乗り,2002年~2003年にかけて画素構成がQVGAで5.4インチ型~5.5インチ型クラスの液晶パネルを採用する製品が登場した。こうした製品では,1画面に約350文字を表示できる。既にミニ文庫本の1ページ当たりの文字数を上回る(図8)。

【図8 大型化が進む電子辞書端末の液晶パネル】電子辞書端末が搭載する5\.5インチ型液晶パネルの面積は,文庫本の文字の印刷領域とほぼ同等である。写真はカシオ計算機が2003年7月末に発売する電子辞書端末「XD\-CP500」である。
図8 大型化が進む電子辞書端末の液晶パネル
電子辞書端末が搭載する5.5インチ型液晶パネルの面積は,文庫本の文字の印刷領域とほぼ同等である。写真はカシオ計算機が2003年7月末に発売する電子辞書端末「XD-CP500」である。
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 仮に液晶パネルの画素構成をVGA(640×480画素)にすれば,一挙に文庫本と同等の約600文字を優に表示できる計算だ注12)。文庫本と同等の文字サイズのフォントを使えば,1ページを全く同じ大きさとレイアウトで構成することも可能になる注13)

注12)「VGA品などの採用を検討する決め手は価格。現行のQVGAの液晶パネルと同程度の価格で入手できるなら,採用を考える」(複数の電子辞書端末メーカーの開発担当者)。

注13)5.5インチ型でVGAの液晶パネルの精細度は約153ppi。この精細度であれば,1文字当たり18×18画素程度のビットマップ・フォントを使えば1文字当たりの寸法を文庫本と同じ約3mmで表示できる。