例えばシャープ/サイバードや,ミュージック・シーオー・ジェーピーは2003年6月,携帯電話機に向けた配信サービスをそれぞれ開始した。2003年夏にジョルダンも参入する。一足先に2002年1月から開始した新潮社/NECインターチャネルの配信サービス「新潮ケータイ文庫」の会員数は,2003 年1月ころに1万人を超えた。2003年内に2万人~3万人に到達する勢いという。各社は着信メロディーとほぼ同様の料金体系や配信データ容量を設定し,携帯電話機ユーザーに書籍データを売り込む(図5)。

【図5 着信メロディーと同じモデルを展開】携帯電話機向け書籍データの配信サービスが採用するサービス体系は,着信メロディーの配信サービスに似た部分が多い。PDAやパソコンに向ける従来の配信事業のサービス体系とは異なる。
図5 着信メロディーと同じモデルを展開
携帯電話機向け書籍データの配信サービスが採用するサービス体系は,着信メロディーの配信サービスに似た部分が多い。PDAやパソコンに向ける従来の配信事業のサービス体系とは異なる。
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ケータイだから利点が次々

 着信メロディーのビジネス構造が出版社や配信事業者にとって魅力的なのは,10代~20代の若年層の読者を取り込める潜在力を持つ点だ。こうした世代の多くは端末を持っており,さらに通信事業者の課金システムを利用して,コンテンツ料金を徴収できる。PDAやパソコンを対象とした従来の配信サービスではクレジット・カードによる電子決済を使っていたが,同カードを持たない層まで課金サービスの対象を広げられる。

 それに加えて,携帯電話機のユーザーは書籍的なコンテンツを受け入れやすい傾向があるという。「携帯電話機ユーザーは,いわゆる情報系コンテンツよりも小説やエッセイといった読み物系のコンテンツを求める傾向が強い」(シャープ SST推進センター 主事の村松正浩氏)。携帯電話機向けの電子メール配信サービス(いわゆるメルマガ)において,全タイトルに対する読み物系のコンテンツのタイトル数の比率を調査すると,約20%にも達するという。パソコン向けのメルマガでは,同比率は約5%にとどまる注7)。同社は1999年からPDAやパソコン向けに書籍データの配信サービスを展開しているが「いずれ携帯電話機に向けた書籍データの販売数が,PDAとパソコン向けを上回る」(同社の村松氏)とし,携帯電話機が読書端末として広がることに手応えを感じている注8)

注7)シャープが2003年3月に調査した結果である。携帯電話機向けメルマガについてはシャープが運営する「メルモ」を,パソコン向けメルマガについてはまぐまぐが運営する「まぐまぐ!」を調査した。

注8)電子メールの利用者数が多い携帯電話機を読書端末として使えば,新しい読書の楽しみ方が生まれる可能性を指摘する声もある。「例えば気に入った文章の1フレーズを友達に転送して感動を伝えるような使い方が生まれる。電子メールを簡単に送信できる携帯電話機だからこそ現実味がある」(NTTドコモ クロスメディアビジネス部 M-stage book店長の安藤哲也氏)。電子辞書端末においても,辞書機能と連動する新たな読書や学習方法が生まれるかもしれない。例えば「ハリー・ポッター」の英語版を取り込んで,学習用教材として活用するなどである。

―― 次回へ続く ――