電子辞書端末メーカーにとっても「読書」は付加価値の1つになりつつある。電子辞書端末が搭載する辞書データの数は,激しいメーカー間の競争の結果,30冊相当をうたう製品が登場するなど,もはや飽和気味。これ以上,むやみに搭載する辞書の種類や冊数を増やしてもコスト増になるだけで差異化につながらない。そこで学習用教材といった従来とは一味違う書籍データの取り込みを図っているのだ。実際,シャープが2003年3月に発売した電子辞書端末「PW-C6000」は,初めて読書用ビューワ・ソフトウエアを搭載した(図1(b))。
新たな読者を開拓
書籍データの配信事業者も,携帯電話機と電子辞書端末に熱い視線を送る。両端末で読書が可能になれば,書籍データの配信サービスの市場が一気に開花することになるからだ。例えば2002年のPDAの国内出荷台数は約68万台。これに対して携帯電話機は約4050万台。電子辞書端末の実売台数は140万台だった(図4)注5)。合計すれば,潜在的な読書端末の出荷台数が実に約60倍に増えることになる。
中でも熱い期待を集めているのが,携帯電話機に向けた書籍データの配信サービスである。「配信サービスを始めるに当たっては,着信メロディーのビジネスをモデルにした。低価格で定額にすればきっと読者は集まる」(ミュージック・シーオー・ジェーピー デジタル出版事業部 次長の本城剛史氏)注6)。
注5)「広辞苑」(岩波書店)を搭載した電子辞書端末の販売台数は,2002年で約140万台に達したという。なお書籍版の広辞苑の販売冊数は,年間で数万冊程度である。ただし改訂版を発売した年は特別で,書籍版も販売冊数が100万冊を超える。
注6)携帯電話機向け書籍データの配信サービス「ケータイ電子書店 SpaceTownブックス」を開始したシャープは,PDAやパソコンに向けた配信サービスで用意した書籍データとは別に,新たに携帯電話機用にコンテンツをそろえた。通信回線を使ってダウンロードできるようにデータ容量を減らしたほか,書籍データを「コンパクトXMDF」と呼ぶ形式で構成した。コンパクトXMDF形式は,同社がパソコンやPDA向けに配信している書籍データのフォーマット「XMDF」形式を携帯電話機向けに変えたものである。
着信メロディーの配信事業は,伸び悩む一般の音楽配信事業を尻目に市場規模が2000年の約134億円から2003年には1085億円へと急成長を遂げようとしている。これに続けとばかりに,携帯電話機に書籍データを配信するサービスが続々と登場している(表1)。