ケータイと電子辞書が打開

 一向に明るい光が見えない電子書籍市場。しかしここにきて「今陥っている苦境を一変させるのではないか」と,電子書籍業界が期待を懸ける読書端末が,彗星のように現れた。携帯電話機と電子辞書端末である(図3)。

【図3 これまでにない利便性】携帯電話機や電子辞書端末を読書端末として使う場合,その利便性はデスクトップ・パソコンやノート・パソコン,携帯型情報機器(PDA)などに比べて高い。電子書籍の普及を狙う出版社や書籍データの配信事業者も,ユーザー層が幅広いことなどから携帯電話機と電子辞書端末に期待を寄せ始めた。(イラスト:村松ガイチ)
図3 これまでにない利便性
携帯電話機や電子辞書端末を読書端末として使う場合,その利便性はデスクトップ・パソコンやノート・パソコン,携帯型情報機器(PDA)などに比べて高い。電子書籍の普及を狙う出版社や書籍データの配信事業者も,ユーザー層が幅広いことなどから携帯電話機と電子辞書端末に期待を寄せ始めた。(イラスト:村松ガイチ)
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 携帯電話機と電子辞書端末は,パソコンやPDAに比べてずっと「本に近い」。まず小型で軽量,電車の中でも片手で持って読書ができる。老若男女を問わない,幅広いユーザー層を誇る。読書をするためにマウスやキーボード,ペンといった特別の道具は要らない。そして何より,かばんの中やポケットに入れて常に持ち歩いている。常に電源オン,または1秒以下で起動するので,思い付いたらすぐ取り出して読み始めることができる。

 タイミングも味方する。出版社と機器メーカーの両者の思惑が,携帯電話機と電子辞書端末の読書端末化で最近,ちょうど一致したのだ。

 多くの出版社は今,長引く出版不況に苦しんでいる。中古本の流通が拡大していることも追い打ちをかける。いつまでも紙の出版事業だけにこだわり続けるわけにいかない。新たな収益源を真剣に模索しなければならない事情から,携帯電話機などへの書籍データの提供に以前よりも積極的になっている。

 一方の携帯電話機メーカーは,カメラ機能の次の「売れる付加機能」の1つとして読書に注目し始めている。例えばシャープは,J-フォンの携帯電話機「J-SH53」に読書用ビューワ・ソフトウエアを搭載し,小説やノンフィクション,学習用の教材,辞書といった書籍データの販売も開始した注3)。東芝はJ-フォンの携帯電話機「J-T010」に,辞書データの再生機能を盛り込んだ注4)

注3)シャープは書籍データの販売方法として,大きく3つの形態を想定する。第1にインターネットの活用である。ユーザーはパソコンなどを使ってダウンロードする。第2が通信販売である。「SDメモリーカード」に書籍データを格納して届ける。第3がコンビニエンス・ストアなどに設置したキオスク端末の活用である。

注4)東芝が携帯電話機向けに用意した辞書は,国語辞書と英和辞書,和英辞書の3つである。収録語数は順に約4万語,約4万語,約3.6万語。データ容量の合計は6Mバイトである。これを16Mバイト容量のSDメモリーカードに格納して携帯電話機に同梱した。