しかし現状は苦しい。電子書籍に関する取り組みは,国内だけを見てもかれこれ10年以上続いている(図2)。それにもかかわらず,依然として電子書籍の市場規模は約2兆3000億円の書籍/雑誌市場の約2%程度にすぎないといわれている。

【図2 ケータイと電子辞書が読書端末に名乗り】2003年,携帯電話機と電子書籍端末が読書端末としての機能を搭載し始めた。紙の出版物を電子化する取り組みは,1980年代後半ころから始まっている。その書籍データを再生する端末はこれまで,パソコンや携帯型情報機器(PDA)が中心だった。
図2 ケータイと電子辞書が読書端末に名乗り
2003年,携帯電話機と電子書籍端末が読書端末としての機能を搭載し始めた。紙の出版物を電子化する取り組みは,1980年代後半ころから始まっている。その書籍データを再生する端末はこれまで,パソコンや携帯型情報機器(PDA)が中心だった。
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 低迷の原因は何なのか。諸説ある中で,よくやり玉に挙がるのは,紙の書籍の読まれ方と,既存の読書端末であるパソコンやPDAの利用実態が大きく懸け離れてしまっていることだ。

 もともと読書端末は,紙の書籍にない利便性を実現できるとされてきた。何十冊もの書籍を1台の読書端末に格納できる。購入するとき,紙の書籍のように本棚の空き場所や持ち運びの際の重さを気にする必要はない。文字サイズを読みやすい大きさに変えたり,色を自分好みに調節することだって可能だ。

 しかしデスクトップ・パソコンを読書端末として使うのには無理があった。たまたま机に向かっているときならよいが,外に持ち出せないし,寝転んで読めない。ノート・パソコンも混雑した電車の中では使えないし,第一,本を読むのにOSの起動で数分間待つなんて,一般のユーザーは耐えられない。

PDAでも困難

 そこで次に注目されたのがPDAだった。これなら書籍と同等の携帯性を実現できる。しかし,誤算があった。PDAのユーザー層がかなり偏っており,出版業界が期待するほどには出荷台数が伸びないのだ。PDAの年間の国内出荷台数は100万台を大きく下回る。しかもインターネットで提供しているPDAやパソコンに向けた電子書籍の配信サービスでは,利用者層が30代~50代の男性だけで全体の8割を占めるという注1)。「PDAやパソコンだけを読書端末の対象としていては,書籍ビジネスを展開する上で偏りが生じてしまう」(新潮社 CAPセンター 次長の村瀬拓男氏)。

注1)ADSLなどのブロードバンド回線の普及が追い風となって,最近はPDAやパソコン向けの書籍データの販売数も徐々に増え始めている。「PDA向けの書籍データの販売数が,ここ2カ月~3カ月で4倍に伸びた」(ミュージック・シーオー・ジェーピー デジタル出版事業部 次長の本城剛史氏)。シャープが運営する書籍データ販売サイト「シャープスペースタウン」では,書籍データの販売実績が月に約1万5000冊に達しているという。

 PDAの普及が始まる前にも,書籍と同等の携帯性を実現することを狙い,専用の読書端末(専用端末)を製品化する取り組みがあった。例えばソニーが 1990年,NECが1993年にそれぞれ製品化した。しかし,筐体が大きめで数万円と高価だった。一般に紙の書籍よりも書籍データの方が安いので,数多くの書籍データを購入するのであれば専用端末を買っても元手を回収できる。しかし大半の一般消費者は,それほど頻繁に書籍を購入するわけではない。このため,幅広い読者に受け入れられるには至らなかった注2)

注2)2000年に東芝は米Microsoft Corp.と提携し,専用の読書端末を事業化する計画を発表した。しかし実際には,製品化の前に計画は中断することになった。当時,事業化の計画に携わった東芝松下ディスプレイテクノロジー 営業統括部 営業企画部 参事の越後博幸氏は,その理由について「そのころは書籍データが少なく,配信インフラも未整備だった。電子書籍が普及するには,魅力的な読書端末と書籍データ,配信インフラの3つの要素が必要だ」と振り返る。