要素技術はそろった

 ドット表示でカラーかつフレキシブルといった多機能化に向けた開発も着々と進んでいる。この方向に対して最も積極的に取り組んでいるのが,E Ink社である。同社は,こうした電子ペーパーの実現に向けた個別技術を盛り込んだ試作品を,2005年10月に開催された「FPD International 2005」で披露した。具体的には,凸版印刷が開発したカラー・フィルタを組み合わせた4096色のカラー表示品や,カラー・フィルタを組み合わせても輝度を維持できるようにインクを改良し反射率などの表示性能をより高めた試作品,韓国LG.Philips LCD Co.,Ltd.らと開発したステンレス薄膜基板上のTFTを用いるフレキシブル品である注12)。現時点では,それぞれの特徴を別々の試作品で実現しているが,2007年ころにもこれらの要素技術を同一の電子ペーパー上で融合させ,実際の製品への適用を図る考えだ(図5)。

注12) カラー表示品は,凸版印刷が開発したRGBW型のガラス基板のカラー・フィルタを採用した。「来場者の反応は高かった」(同社 生産・技術・研究本部 技術戦略推進部 課長の檀上英利氏)という。

図5 要素技術を融合させる
図5 要素技術を融合させる
米E Ink Corp.は,数年後に登場するとみられる機器に向けた幾つかの要素技術を開発した。具体的には,表示性能をさらに向上させた試作品,カラー化,フレキシブル化を実現した試作品である。2007年にも,これらの要素技術を融合させた電子ペーパーの実用化を目指す考えである。中央のイラストは,セイコーエプソンが提供。

 E Ink社によれば,2007年ころにこうした電子ペーパーが実現することを待望する複数のセット・メーカーが,実際に存在するという。「デジタル配信した新聞や週刊誌のコンテンツを閲覧する端末など,幾つかの具体的な案件がある」(同社の桑田氏)。当初,こうした案件のユーザーが,ガラス基板を利用した試作品を使って使用環境を想定した評価を行っていたところ,試験中にガラスが割れてしまうという問題が生じたという。このため,これらのユーザーは,フレキシブル品であることを必須条件として要求しているという。

 アクティブ駆動を前提とするE Ink社の方式では,こうした要求に対応するためフレキシブル基板上のTFTを用意する必要がある。しかし,有機TFTなどの実用化を待っていては,2007年ころには間に合わず,事業化の機会を失ってしまうと考えた注13)。そこで目を付けたのが,ステンレス薄膜基板上のTFTである2)。既存のアモルファスSi TFTの製造設備を利用して製造でき「幾つも開発が進んでいるフレキシブル基板上のTFT技術の中では,最も早く実用化が見込める」(同社の桑田氏)とみている。

注13)ソニーは,プラスチック基板上に形成した有機TFTを開発し,これを利用した2.5インチ型で160×120画素の液晶パネルを2005年7月に開催された学会「AM-LCD 05」で発表した。「液晶パネルは製造工程が複雑でハードルが高いが,我々の有機TFTがそれにも対応できることを示した」(同社 マテリアル研究所 融合領域研究部 第2研究グループ フレキシブルデバイスチーム 統括課長の野本和正氏)とする。有機TFTの視点から見ると「液晶パネルよりも,電子ペーパーと組み合わせるほうが容易だ。電子ペーパーの中でもより低電圧駆動な電子ペーパーであるほど組み合わせやすい」(同氏)という。