光で書き換える

 富士ゼロックスが開発を進める電子ペーパーも,紙の代替を意識したものだ。「ディスプレイ上では見にくいが,紙に打ち出すまでもない情報を書き込む用途を狙っている」(同社 研究本部 先端デバイス研究所 統括マネジャーの三田恒正氏)。例えば,ちょっとした電子メールの内容や地図などを,紙に印刷する代わりに電子ペーパーに書き込み,それを持ち歩くという格好である。

 富士ゼロックスが開発する方式は「光書き込み型」と呼ばれており,その名の通り,表示させたい画像の光を電子ペーパーの背面から当てることで,表示を書き換えることができる(図4)。光で書き込める理由は,感光層を利用する独自の構造を採用しているため。この電子ペーパーは,コレステリック液晶層の下に感光層を設けており,感光層側から光を当てることで,光の強弱に応じて感光層の抵抗が変化する。この結果,感光層と直列につながれた液晶層に印加される電圧が変化する現象を利用して,液晶層に書き込みを行う注11)

注11) 富士ゼロックスの電子ペーパーの厚みは0.3mmほど。コレステリック液晶をマイクロカプセル化することで,塗布で製造でき,かつ曲げに強いようにしている。

図4 ベタ電極でも高精細
図4 ベタ電極でも高精細
富士ゼロックスが開発する電子ペーパーは,表示部の背面から表示させたい画像の光を当てることで,表示を書き換える。例えば,専用のプロジェクタ画面にこの電子ペーパーを当てて電圧を印加することで,プロジェクタ上の画面を電子ペーパーに書き移すことができる(a)。つまり,プロジェクタ画面の表示解像度を電子ペーパー上で再現できる。同方式は,通常のドット表示型電子ペーパーのように画素数に応じた微細配線などは不要であり,背面に配置したベタ電極だけで済む(b)。

 こうした原理のため,画素に相当する電極のパターンニングなどが不要であるという利点がある。実際,駆動電極部分には,一面ベタの電極しか備えていない(図4(b))。このため「駆動電極の制約を受けず,低コスト化や大画面化しやすい」(富士ゼロックスの三田氏)ことが大きな特徴となる。

 いずれは,オフィスにあるパソコン用モニタにこの電子ペーパーを当てれば,モニタ上に表示していた情報を電子ペーパーに書き込めるという使い勝手の実現を目指すという。ただし,現時点では光量を大量に確保でき,直進性のある光を放出できるような専用の書き換え装置を利用する必要がある。