最大の魅力は低消費電力

 電子ペーパーを利用する機器メーカーの狙いは,従来のディスプレイでは難しかった特徴を持つ機器を実現することである。例えば,セイコーウオッチが発売する腕時計は,表示部が「曲げられる」ことを生かしたブレスレット状のデザインをウリにする。イシダが発売する棚札は,樹脂基板を利用した電子ペーパーを採用することで,割れにくさと,軽さを実現した。仮に液晶パネルを利用すると,重たくなり,かつ割れやすくなることから,現実的ではないという。

 中でも,従来のディスプレイと比べて,最も明らかな差分を得られるのが消費電力である。表示の書き換え時しか電力を消費しないため,利用方法によっては消費電力を大幅に低減できる。例えば,分刻みで書き換えを行うシチズン時計が発売する設備時計は,消費電力が「液晶パネルを使った同サイズの設備時計と比べて1/20になる。バックライトを付けた状態では数千分の1になる」(同社 MHT開発本部 技術研究所 第五研究室 EPプロジェクト 開発担当リーダーの金子靖氏)。このため,バッテリー駆動が可能になり,電源工事を行ってから設置するなどの手間が省け,電源設備がない場所にも自由に設置できる利点が生まれるとする注4)

注4) シチズン時計が,この設備時計のニュース・リリースを2005年6月に出したところ「WWWサイトに通常の10倍近いアクセスがあった。すぐ買いたいという話も幾つか来た」(同社)という。

図2 東京駅で実証実験
図2 東京駅で実証実験
ジェイアール東日本企画と日立製作所は,2005年12月1日から14日までの2週間,JR東京駅北口地下1階の「動輪の広場」に電子ペーパーを利用した広告表示装置を設置した。新たな広告媒体としての可能性の検証と,電子ペーパー技術の信頼性などを確認するための実証実験である。外部調達の13.1インチ型電子ペーパーを利用して日立製作所が開発したディスプレイを6台備える。各ディスプレイは1024×768画素で白黒の2値表示だが,面積階調方式によって階調表示を実現している。

 冒頭の東京駅における実証実験のための装置もバッテリー駆動であり,装置を設置するための電源工事などは行っていない(図2)。ディスプレイには,1.2Vで1350mAhのポリマ型Liイオン2次電池を4個組み込んでおり,バッテリー寿命は,通信の頻度にもよるものの約1000回の書き換えが可能な程度であるとしている注5~6)

注5) 表示の書き換えは,東京駅近くの日立製作所のオフィスにあるサーバから,端末の設置場所近くの売店に置かれたアクセス・ポイントを経由して,無線LAN(IEEE 802.11b)によってダウンロードして行った。

注6)最終製品としての低消費電力の実現は,単に電子ペーパーを採用するだけでは難しいとの声もある。旭硝子は,自社で電子ペーパー材料から最終製品までを開発した電池駆動が可能な公共表示端末を,現在,東京メトロ四ツ谷駅などに設置し,実証実験を行っている。「当初は電子ペーパー部分の開発が終われば完成と思っていたが,実際には,通信回路など周辺回路の低消費電力化の工夫が不可欠だった」(旭硝子 中央研究所 主幹の新山聡氏)という。実証実験の結果を受けて,同社は2006年度中の実用化を目指す。