残像の課題が改善

 電子ペーパーの実用例は過去にもあったが,これまでは一部の用途にとどまっていた注2)。電子ペーパーを供給できるメーカーが限られており,先行して実用化した米E Ink Corp.の方式にも,当時は「残像」という課題が残っていたためである1)。残像とは,表示の切り替え前に映し出していた文字や記号が,切り替え後にもうっすらと残る現象である。しかし,最近になって,この課題が解決されたことに加え,さまざまなメーカーが開発を進めてきた,異なる特徴を持つ電子ペーパーがこぞって実用化段階に入ったことにより,いろいろな用途での採用例が相次いでいる(図1)。

注2) 電子ペーパーを採用した事例としては,2003年に松下電器産業が発売した読書端末「ΣBook」や,2004年にソニーが発売した読書端末「LIBRIé」などがある。

【図1 電子ペーパー,第2の波が到来】2006年~2007年にかけて,電子ペーパーへの参入事業者が一気に増える。読書端末以外にも,電子ペーパーを採用したさまざまなジャンルの製品が市場に登場する見通し。さらに2008年以降に向けて,新たな特徴やさまざまな特徴を兼ね備える電子ペーパー技術の開発が進んでいる。
図1 電子ペーパー,第2の波が到来
2006年~2007年にかけて,電子ペーパーへの参入事業者が一気に増える。読書端末以外にも,電子ペーパーを採用したさまざまなジャンルの製品が市場に登場する見通し。さらに2008年以降に向けて,新たな特徴やさまざまな特徴を兼ね備える電子ペーパー技術の開発が進んでいる。
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 E Ink社は,残像現象を改善した電子インクを開発し,既に機器メーカーなどに対して提供を始めている。「今,提供しているインクは,残像が残らないように改善したもの」(同社 副社長 販売/市場開発担当の桑田良輔氏)。実際,セイコーウオッチが2006年1月に発売する腕時計や,シチズン時計が同年3月までに発売する設備時計には,残像現象を改善したE Ink社の最新の電子インクが採用されている。

 E Ink社以外のメーカーが開発を進める複数の電子ペーパーも実用化段階に入り,実際に採用する機器メーカーが出始めている。例えば,イシダが2006年1 月に発売する棚札には米SiPix Imaging,Inc.の電子ペーパーを採用する。「3年前から棚札に電子ペーパーを利用する検討を始めたが,当時は電子ペーパー技術が要求水準に達していなかった。ここにきて,視認性能や品質のバラつきなど,実用水準に達した」(イシダ 流通・FAシステム部 ESL事業センター センター長の菊川毅氏)という。電子ペーパーを利用した汎用ディスプレイを2006年春に発売する日立製作所は「どこよりも早く投入したいと考えていた。この時期に実用化できる技術を持つ電子ペーパー・メーカーと組むという選択をした」(同社 情報制御システム事業部 交通システム本部 交通システム企画部主任技師の鈴木薫氏)とする注3)

注3)日立製作所は具体的に明かしていないが,画面寸法や仕様などからブリヂストンが開発する電子ペーパーを採用しているとみられる。日立製作所が開発する汎用ディスプレイは,画素数が1024×768で白黒2値表示の電子ペーパーのほか,駆動・通信回路,メモリ,バッテリーなどを組み込んだもの。試作品の外形寸法は216mm×282mm×6mmで,重さは約500g。さらに同社は,2006年末~2007年にかけてカラー表示の汎用ディスプレイも実用化する考えで,「2006年中には試作品を披露したい」(同社)という。