米Intel社は2008年6月,太陽電池の生産を行う新会社SpectraWatt社を設立し,太陽光発電事業に参入すると発表した。2008年後半に米オレゴン州に工場を建設し,2009年半ばまでに出荷を開始する予定である。SpectraWatt社は太陽電池を生産して太陽光発電装置メーカーに供給するという(BPnetの関連ニュース)。

【図1 2009年6月18日に開催された米Intel Corp\.の研究開発部門の成果を紹介するイベント「Research@Intel Day 2009」で展示された有機太陽電池の説明パネル】n型半導体としてフラーレン誘導体(PCBM)を,p型半導体としてポリチオフェン(P3HT)を使い,バルクヘテロ接合構造をとっている。この材料系と構造そのものは有機薄膜太陽電池では一般的なものだが,電極をくし型にして内部まで入り込ませて電子を流れやすくすると共に,バルクへテロ構造を規則性高く制御することによって変換効率を高めようとしているとみられる。
図1 2009年6月18日に開催された米Intel Corp.の研究開発部門の成果を紹介するイベント「Research@Intel Day 2009」で展示された有機太陽電池の説明パネル
n型半導体としてフラーレン誘導体(PCBM)を,p型半導体としてポリチオフェン(P3HT)を使い,バルクヘテロ接合構造をとっている。この材料系と構造そのものは有機薄膜太陽電池では一般的なものだが,電極をくし型にして内部まで入り込ませて電子を流れやすくすると共に,バルクへテロ構造を規則性高く制御することによって変換効率を高めようとしているとみられる。
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 同社は,こうした既存の太陽電池事業を手がける一方で,次世代技術として,有機太陽電池の試作品を同社主催のイベントで展示した(Tech-On!関連記事1)。研究の詳細や成果は明らかにされていないが,説明パネル(図1)によると,有機太陽電池の中でもp型とn型の有機半導体から成る有機薄膜太陽電池である。材料系とバルクヘテロ接合構造(p型半導体とn型半導体分子を混合することによって3次元p-n接合構造をとったもの)そのものは有機薄膜太陽電池では一般的なものだが,電極に工夫を加えて特性を高めようとしているようだ。

 いずれにせよ,半導体最大手のIntel社も研究を始めた有機太陽電池とはどのような可能性を持った太陽電池なのだろうか。一言で言うと,これまで見てきた有機TFT駆動のディスプレイ有機EL照明といった有機デバイスと同様に,形状やデザインの自由度が高く,印刷技術を適用することによってプロセス・コストを大幅に低減できる可能性がある。

 特性や寿命が低いことがネックな点も他の有機デバイスと同様だが,有機太陽電池がユニークなのは,特性や寿命が低いままでも使えるアプリケーションを開拓して,量産化に乗り出すベンチャー企業が出てきていることだ。

用途を限定して量産化がスタート

 有機太陽電池には,色素増感型太陽電池有機薄膜太陽電池の2種があるが,まず量産化がスタートしたのが,色素増感型太陽電池だ。

 英国のベンチャー企業G24 Innovations Ltd.(G24i社)が2007年10月にロール・ツー・ロール式の印刷技術を用いて,25MW/年という規模でフレキシブルな色素増感型太陽電池モジュールの量産を始めたのである(図2(a))。同社が想定している用途は,携帯電話機や小型パソコン向けのポータブル充電器などで,既に2008年には発売した。充電器の価格は20~40米ドルで,特に狙う地域は,電力インフラの整備が遅れているインド,中国,アフリカ,南米などの新興国だという(大久保聡,野澤哲生,「新概念の電子デバイスを創造するプリンタブル・エレクトロニクス」,『有機エレクトロニクス2010-2015』,p.73)。

図2 稼動が始まった有機太陽電池の印刷製造ライン
図2 稼動が始まった有機太陽電池の印刷製造ライン