――まさに,ソニーに社運を懸けたわけですね。

 ソニーがE Ink社を救ったといえるかもしれません。あのプロジェクトが頓挫していたらと考えると,ゾッとしますよね。あれが我が社にとっての里程標といえるでしょう。

――ただ,ソニーのLIBRIéは,市場ではあまり成功しませんでした。

 確かに,ビジネスとしては成功したと言えないかもしれません。ただし,我々の目的の大半は達成したと言えます。我々の目的は,いきなり膨大な量を売って利益を出すことではなく,ソニーが製品を発売することで,電子ペーパーという技術の存在を世間に知ってもらうことでしたから。実際,あの製品をキッカケに,Amazon社が電子ペーパーに強く興味を持ったのです。つまり,外においては競合メーカーを刺激し,内においては我々の株主を引き止めたという点で,非常に大きな意味がありました。

――これが,現在の「電子ペーパー=E Ink」という世間のイメージにつながっているわけですね。

(写真:栗原 克己)

 我々はその後も,意味のあるプロジェクトを積み重ねることができました。例えば,米Motorola,Inc.が発売した携帯電話機「MOTOFONE」です。メイン・ディスプレイに電子ペーパーを採用した端末で,1000万台に近い台数が売れました。携帯電話機という技術や価格の要求が厳しい分野で,これだけの台数を売ったことは,電子ペーパーの採用を検討するメーカーに対して,安心感と信頼感を与えられたのではないかと思います。

 このほか,米Lexar Media社が発売したUSBメモリもそうでしょう。USBメモリに搭載した電子ペーパーにメモリ容量の残量を表示する機能を持たせた商品です。これも,爆発的に売れています。アイデア次第では,電子ペーパーの使い方は無限にあるというインパクトを与えることができたのではないでしょうか。

――電子ペーパーの技術開発の面で,現在注力している点は何でしょうか。

 まずは,白黒のコントラスト比向上です。米国の機器メーカーは,現状の性能で十分としています。しかし,それではダメだと,私は社内でいつも言っています。例えば米国では以前,テレビとしてプロジェクターが売れていましたが,液晶やPDPが登場してきたら,あっさりと売れなくなってしまった。ですから,より要求レベルの高いアジアの機器メーカーが満足するレベルを目指す必要があると考えています。