日立製作所の超薄型液晶テレビ「Wooo UTシリーズ」を分解し,その詳細を解説した2008年1月の日経エレクトロニクスの記事を再掲載するシリーズの最終回。今回は,電源基板と並び,薄型化に寄与したもう一つの大きな要素であるバックライトについて解説する。バックライトを個々の要素部品にまで分解し,厚さを従来の半分にした,その秘訣を探る。(Tech-On!)
電源基板と並び,薄型化に寄与したもう一つの大きな要素がバックライトである。バックライトは表示画面とほぼ同じ実装面積を占める。画面に対してある割合の実装面積しか占めない電源基板に比べ,よりテレビ全体の厚さの仕様に直結する部品だといえる。
Wooo UTシリーズのバックライトを取り出し,その厚さを測ると約15mmだった(図6(a))。テレビ全体の厚さが35mmであることから,その4割強の厚みがバックライトで占められていることになる。日立製作所は以前,「バックライトは従来品の1/2に薄くした」と語っていたことから,従来品のバックライトの厚さは約30mmだったとみられる。つまり,以前はバックライトだけで,今回のテレビの厚さ(35mm)に匹敵していたようだ。このバックライトの厚さを半分に削減するため,どのような工夫を施したのか─。その秘訣を探った。
基本構成は変えず
バックライトの薄型化には,幾つかの手段がある。現行の液晶テレビのバックライトは,光源である冷陰極蛍光管(CCFL)をパネルの背面に複数本並べてパネルに光を照射する「直下型」という方式を採る。これに対し,例えば(1)光源は変えず方式を「エッジ・ライト型」にする,(2)方式は直下型のまま光源を白色LEDにする,(3)光源は白色LEDでエッジ・ライト型にする,というように構成を変更する方法が考えられる1)。
しかし,今回のバックライトは,(1)~(3)のいずれの方法にも当てはまらない。取り出したバックライトを分解すると,拡散板や光学シート,そして蛍光管状のランプが現れた(図6(b,c))。光源であるランプは,パネルの背面に複数本並んでいる。すなわち,直下型だ。光源はLEDではない。つまり,現行のバックライトと同じ構成のまま,薄くしたことになる。あるテレビ・メーカーの技術者は「LEDはまだコストが高い。エッジ・ライト型は輝度を高めにくく,テレビとして十分な明るさを得られない可能性がある。現時点での商品化を考えると,光源や方式などの構成を簡単に変えられない」と,その理由を分析する。
ただし,既存の構成のバックライトを単に薄くすると,画面に「管ムラ」と呼ばれる表示ムラが生じることが知られている。ランプとパネルの距離が近づくために,ランプがある場所だけが明るくなり,ランプがない場所との明るさの差が目立つようになるムラである。今回のバックライトからは,この管ムラに対処する二つの工夫が確認できた。
光学シートを4枚利用
第1の工夫は,多数の光学シート類の利用である。パネルとランプの間に配置する光学シート類は,ランプの光をパネル面内に均一に分散させたり,光の指向性を制御して明るさや視野角を確保したりする役目を担う。今回確認できた光学シート類は,1枚の拡散板と4枚の光学シートである(図6(b))。これは,通常の液晶テレビのバックライトに比べて多いという。「普通は,1枚の拡散板に2~3枚の光学シートを組み合わせる」(あるバックライト・メーカーの技術者)。
光学シートを通常より多く用いたのは,ランプの光をさらに拡散させて管ムラを抑えるためと推測できる。あるバックライト・メーカーの技術者の分析によれば,4枚の光学シートの種類は,上(パネル側)から厚めの拡散シート,薄めの拡散シート,厚めのレンズ・シート,薄めの拡散シートである。つまり,4枚のうち3枚が拡散シートである。「シート自体は決して特殊なものではないが,数多く使うことで拡散の度合いを高めている」(前述の技術者)。厚めのシートと薄めのシートを交互に配置しているのは「シートにシワが寄らないようにする工夫」(同技術者)とみられる。
ランプは奇数の19本
管ムラに対処する第2の工夫は,ランプの本数と種類である。一般的に,ランプの本数を増やして配置間隔を狭めていけば,管ムラは目立ちにくくなる。今回使われていたのは,19本のランプである(図6(c))。「32型だと12本や16本といったランプ本数が一般的」(あるバックライト・メーカーの技術者)であり,本数を多くして管ムラを抑えていることが分かる。なお,シャープの32型「AQUOS Gシリーズ」は14本のランプを採用していた。
定石通りの管ムラ対処の工夫に見えたが,バックライト・メーカーの技術者は「奇数本は珍しい」と指摘する。通常,ランプの本数は偶数であるという。これは「通常は1個のトランスで2本のランプを駆動するため,奇数本だと回路バランスが崩れてしまう」(前述の技術者)からである。
なぜ,今回はランプを奇数本にできたのか。その理由は,採用したランプの種類にある。使われていたのは,EEFL(external electrode fluorescent lamp)と呼ばれるランプ(図7)。電極を外部に設けた蛍光管で,1個のトランスで複数本のランプを駆動できる。このため,CCFLを使う場合のように偶数にこだわる必要がないという。奇数本という選択肢が浮上すれば,管ムラを抑えるためにランプ本数を増やしていく際,最適な本数を選べる。19本で済むところを20本使うという不要なランプを削減でき,コスト増になる要因をなくすことができる。
さらに,EEFLを用いればトランスの個数を減らせるので,CCFLを使う場合に比べてインバータ回路基板を小さくできるのも特徴といえる(図8)。EEFLを採用した狙いは,ここにもあったと推測できる。
プレス技術でムラを抑える
光学シートやランプの工夫で,管ムラを抑えつつ薄型化を図ったバックライト。しかし,薄くすることで光学的な設計の余裕度はどんどん少なくなる。例えば,わずかなシートの歪みが,表示のムラに直結することも考えられる。
今回の製品では,こうした点を考慮した設計も確認できた。ランプや光学シート類を配置するバックライト・ユニット部の背面の筐体と,ネジ穴などを確保するための額縁の部分を一体成形している個所である(図9)。バックライト・メーカーの技術者は驚きを見せる。「このような構造は初めて見た。深い絞りを連続して施している。よほど優秀なプレス技術を保有しているのだろう」。
こうした構造にすることで筐体の強度を高め,歪みを低減させることを狙ったとみられる。バックライト・ユニットの筐体が歪みにくければ,光学シート類の位置ずれなどによる表示ムラは生じにくくなる。「この構造は,薄型化と表示特性を両立させる一つの答えかもしれない」(バックライト・メーカーの技術者)という。
ただし,こうした構造は,テレビの表示部の額縁を大きくする可能性がある。筐体に歪みを生じさせないよう,パネル・モジュール(バックライト)を強固にネジ留めできる額縁を設けるためである。最近のテレビは筐体の美しさを求めて狭額縁化の傾向にあり,パネル・モジュールの狭額縁化も進んでいる。ネジ穴をモジュールの側面に設けるサイド・マウント型を採用するなど,狭額縁化への工夫を施した製品が数多く見られる。今回の取り組みはこうした流れとは逆行する。Wooo UTシリーズの表示部の額縁は,左右が56mm,上が48mmと確かに最近のテレビとしては大きい。この一因は,前述の構造にあるようだ。
ただし今回の液晶テレビでは,「レイアウト・フリー」を追求するという視点から,裏側から見られたときの美しさにこだわる工夫をバックライトに施している。例えば,テレビ背面に設けた排気口からの光漏れはほとんど確認できなかった(図10)。ランプの下側に配置する反射シートの裏側を黒色にすることで,ランプの光の透過を妨げたようだ。
参考文献
1) 小谷ほか,「壁張リデナクバ,テレビニ非ズ」,『日経エレクトロニクス』,2007年11月19日号,no.965,pp.47-73.