日立製作所の超薄型液晶テレビ「Wooo UTシリーズ」を分解し,その詳細を解説した2008年1月の日経エレクトロニクスの記事を再掲載するシリーズの第2回目。Wooo UTシリーズは,薄型テレビのトレンドの一つになった「超薄型化」の先鞭を付けた液晶テレビである。今回は,この液晶テレビが発売された当時の状況と,分解をした技術者が指摘する製品全体の設計思想について紹介する。(Tech-On!)


 2008年,薄型テレビのトレンドは,間違いなく壁張りテレビを見据えた「超薄型化」になるといえるだろう。2008年1月上旬に米国ラスベガスで開催された「2008 International CES」でも,テレビ・メーカー各社が超薄型品を競って展示した。

 このトレンドの先陣を切った製品が,日立製作所が2007年12月に発売した液晶テレビ「Wooo UTシリーズ」である(図1)。何しろ厚さが最薄部で35mmしかない。これまで最も薄かったのが,シャープが2007年8月に発売した液晶テレビ「AQUOS Gシリーズ」の81mmだったことを考えると,実に半分以下に薄くなったことになる。

図1 「超薄型」時代の起爆剤に
図1 「超薄型」時代の起爆剤に
日立製作所が2007年12月に発売した厚さが最薄部で35mmの液晶テレビ「Wooo UTシリーズ」は,既存製品に比べて大幅な薄型化を実現した。これまで最も薄かったのは,シャープが2007年8月に発売した「AQUOS Gシリーズ」の81mmだった。今回の製品は,2008年以降にテレビ・メーカー各社が厚さ30mm台を下回る超薄型品を投入する起爆剤となるだろう。

 この製品は,多くの業界関係者がその売れ行きを注意深く見守っている。「超薄型というウリが,消費者にとってどこまで魅力的なものなのか,その判断の目安となる」(複数のテレビ・メーカーの技術者)からである。先行して発売した32型品の市場価格は約20万円(2008年1月現在)。日立製作所が「従来品より5万円以上,上乗せした価格にした」と語っていたように,同型の液晶テレビより割高だ。この製品が販売面で成功を収めれば,薄型テレビの単価下落という「滑り台」から脱出する一つの手段をテレビ・メーカーが見つけたことになる。

「日立らしくない」製品に

 販売面だけでなく,厚さを現行品の半分以下にした技術面にも,この製品への興味は尽きない。そこで今回,国内テレビ・メーカーや部品メーカー,バックライト・メーカーの技術者の協力を仰ぎながら,32型の「UT32-HV700B」の分解を試みた。

 分解を進める中で,立ち会った技術者から異口同音に発せられたのが「日立にしては冒険している」という趣旨の言葉である。ある技術者は「これまでの日立のテレビを分解すると,いかにもまじめで正統派な設計していた。それに対して今回は,こだわるところは徹底してこだわるなど,これまでにない思想で設計している」と指摘する。

 設計のこだわりは外見にも現れている。薄さを引き立たせるべく,テレビをどこから見ても美しく仕上げる工夫が随所に盛り込まれていた。通常,テレビ背面に設ける壁掛け用のネジ穴はむき出しにしているが,今回は筐体と同色のビスでネジ穴を隠していた。このほか,テレビ背面の接合用ネジ穴の周囲には,通常はリサイクルのために表示してあるネジ位置を示す矢印が見当たらない。さらに,筐体に設けたスピーカーの穴が極めて小さい。これらはいずれも,デザインを優先させた設計の結果とみられる。

 このように,随所に興味深い設計思想が見え隠れするが,今回の本質はやはりデザインの内面に秘められた薄型化技術である。分解を通して確認できた薄型化実現のカギは,大きく二つ。電源基板とバックライトである(図2)。次回から,この二つの技術要素の詳細について,順に分析していく。

図2 薄型化のカギは電源基板とバックライト
図2 薄型化のカギは電源基板とバックライト
大幅な薄型化を実現した決め手は,電源基板とバックライトの見直しである。日立製作所の従来品に比べ,電源基板はほぼ1/3となる約12.3mmに,バックライトを含めたパネル・モジュールはほぼ1/2となる約20mmに薄くした。