次の出番をうかがうISDB-Tmm
携帯電話業界も巻き込む
図A-1 ISDB-Tmm技術のデモ
図A-1 ISDB-Tmm技術のデモ
東京タワーから発射された電波を受信する様子。2012年初頭ごろの実用化を想定する。

 携帯端末向けマルチメディア放送が,2012年の実用化を目指し,進行中である。携帯端末向けマルチメディア放送は,地上アナログ・テレビ放送の終了によって空く周波数のうち,VHF帯の13.5MHz幅を利用する展開が予定されている。この放送の技術基準をどうするのか,まさに今,議論が進められている。ここにはISDB-Tのファミリー技術「ISDB-Tmm」と,Qualcomm社が開発した「MediaFLO」が名乗りを上げている(図A-1)。そして,携帯電話事業者3社もそれぞれ,関連会社を立ち上げている。NTTドコモは,ISDM-Tmm陣営,KDDIはMediaFLO陣営である。放送業界も,ISDB-Tmmを支持している。ソフトバンクモバイルは,もともとMediaFLO陣営だったが,実用化時期の想定が違ってしまったとして2008年秋にISDB-Tmmの採用方針に切り替えた。

 こうした放送方式について,技術基準の大枠は法令で定めることになる。現在は,電気通信審議会で議論が進められている。政府が規格の大枠を決めるというのは,ハイビジョン方式のアナログ・デジタルの議論のときと同様である。政府が絡むことになるため,どうしても政治色が強くなってしまう。それは,今も昔も変わらない。

 今回の議論は「13.5MHz幅全体でISDB-Tmm技術を利用する」「13.5MHz幅を分けて,一部はMediaFLO技術の利用も可能にする」のどちらを選ぶか,である。携帯端末向けマルチメディア放送の大枠を決めるために総務省が設置した懇談会で,2008年冒頭ごろに大議論になった。

 例えば,こんな一幕もあった。懇談会の事務局が「SFN(単一周波数ネットワーク)で全国をカバーするネットワークは構築できない」→「一つの技術方式を採用するとしても,13.5MHz幅を地域ごとに分けて利用する必要がある」という見方の資料を提出した。つまり,「技術方式が一つとしても,13.5MHzの帯域幅を分割する必要がある。複数の方式を認めることはとてもできない」→「技術方式はISDB-Tmmに一本化する」という図式が,技術を理由にして説明されたのである。

 しかし,実際にSFN化できるのかは,どこまでのエリアをカバーするべきかというビジネスモデルと,基地局数つまり投資金額によるところが大きい。現実的には,MediaFLOを推すグループだけではなく,ISDB-Tmmを推進するグループからもSFN化は可能という文章が提出されて,議論は元に戻った。「中途半端な技術的な理由により一本化の提案」がなされて,現実的でないと否定されたのである。

 ただし,(当時)携帯電話事業者の3社のうち2社がMediaFLOを選択しており,かつ各事業者の抱えるユーザー数を足してもほぼ互角な状況の中では,結論がつかなかった。この結果,結論は先送りになり,技術基準が一本化されるのかどうかの最終結論は,2010年に予定される事業者確定の段階まで先送りされる見込みである。