実際,日本の場合は放送方式をデジタルに切り替えたといっても,実はBSも地上波も日本独自方式である。つまり,日本のテレビを海外に持っていっても,映る国はない。最近になって,ようやくブラジルでISDB-Tの放送が始まった程度のことである。それでも,放送方式をデジタルに切り替えた結果,トランスポート・ストリーム上にMPEG-2といった動画像圧縮データなどを載せて送るという放送の基本形は,国内外を問わずに同じである。

融合時代を見据える

図3 テレビが放送技術からAV技術へ,そしてIT技術へ
図3 テレビが放送技術からAV技術へ,そしてIT技術へ

 放送方式がデジタルに切り替わった後,テレビに対する他産業からのアプローチは続く。例えば,映像フォーマットに対する提案,さらにはデータ放送記述言語をめぐる争いである。

 2010年以降を見ると,テレビをめぐる技術の議論は,映像ではなくネットワークとの融合,あるいはIT技術との融合が主テーマになるとみる(図3)。「iPhoneならぬiTV」「Androidテレビ」など,IT業界はインターネット,携帯電話の次として,テレビを中核にしたリビングAVの攻略に照準を定めるだろう。このとき,パソコンや携帯電話とテレビなどを連動させることで一気に攻めてくると思われる。2010年以降には,FTTHなどのブロードバンドの普及およびホーム・ネットワークの浸透,3.9Gあるいは4Gといった高速無線通信技術の実用化と,フェムトセルなどFMCの動きが顕著になる。さらに,通信と放送で別々だった規律の“大くくり化”をしようという融合法制度も,国内では2010年の施行が予定される。

 テレビがネットワークにどう融合していくのかは議論が分かれるところだろうが,「コンテンツやアプリケーションの開拓も含めた開発人口の多いIT技術が,他の産業を圧していく」可能性は高い。そういう事態を想定しながら,今後もテレビの行方を見守る必要があるだろう。

参考文献
1)「テレビは進化する―日本放送技術発達小史」,http://www.nhk.or.jp/strl/aboutstrl/evolution-of-tv/
2)日経ニューメディア別冊,『デジタルテレビ―放送・通信・コンピュータの融合』,日経BP社,1992年.
3)吉沢ほか,「放送もようやくデジタル化の波」,『日経エレクトロニクス』,1994年5月19日号,no.607,pp.133-150.