並列処理技術で高速化

 1990年代には,主として,同時に複数の命令を実行する「スーパースカラ技術」の導入によって高速化を図った(図6)。命令セットの種類によらず,RISC型でもCISC型でも,同様の技術を取り入れた。2~4個の命令を同時に実行するマイクロプロセサが相次いで登場したが,その数は頭打ちとなる。処理可能な命令数を増やしたところで,プログラム中に並列実行可能な部分がさほど多くなかったからである。

図6 マイクロプロセサ技術の進化の歴史
図6 マイクロプロセサ技術の進化の歴史
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 スーパースカラ技術と並んで注目されたのがVLIW(very long instruction word)技術である。VLIWと呼ぶ長い命令を定義する。例えば128ビットの1命令で,通常の32ビット命令の4個分の処理を実行するわけである。VLIW技術を実装したマイクロプロセサの開発も進んだが,市場を広げるには至らなかった。既存のマイクロプロセサと互換性のない命令セットを普及させるのは,容易なことではないからだ。

 では,マイクロプロセサの技術開発は今後,どちらの方向に進むのか。ひとえに,マルチコア化が進む。現行の最新マイクロプロセサでは,2~4個のコアを内蔵するものが主流となっている。これに先駆け,最も早くマルチコア技術を積極的に取り込んだのは,ソニー・コンピュータエンタテインメントの「Cell」だ。2006年に,「プレイステーション 3」に実装されたこのマイクロプロセサは,9個のコアを内蔵していた。現在,研究レベルでは80コアを内蔵するマイクロプロセサも試作されている。プロセサ単位での並列処理技術の導入が,今後の性能向上の鍵を握る。

 ただし,将来に向けて不安材料もある。この40年弱,マイクロプロセサにもたらされた技術革新の源泉はすべて,メインフレームまたはスーパーコンピュータにある。スーパースカラ技術にしてもマルチコア技術にしても,研究レベルでアイデアが生み出されたのは実に古い。過去のコンピュータ・サイエンスの研究成果を順次,チップの上に実装してきたわけだが,この先の技術が見えない。アイデアを使い尽くした感がある。次なる新たなコンピューティング・パラダイムは何なのか――クラウド・コンピューティングの時代におけるマイクロプロセサには何が要求されるのか,斬新な発想に基づく技術イノベーションが求められている。