日経エレクトロニクス

携帯機器の普及を支えたLiイオン,19年間で約4倍に高密度化

要素技術編:電池

山下 勝己=日経エレクトロニクス
2009/05/08 00:00
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 1989年夏,悲しい事故が起こった。カナダのMoli Energy社製の金属Li2次電池を搭載したNTTの携帯電話機が,発火事故を立て続けに起こしたのだ注1)

注1) Moli Energy社が製品化していた金属Li2次電池は正極にMoS2,負極に金属Liを採用していた。体積当たりのエネルギー密度は126Wh/L。ただし,試作品では正極をMnO2に変更することで216Wh/Lを達成していた。

 Liのイオン化傾向は,金属の中で最も大きい。従って,これを正極材料,もしくは負極材料に適用すれば,エネルギー密度が極めて高い2次電池を実現できる。いわば「究極の電池材料」である。しかし,エネルギー密度を高められることを裏返せば,発火や発煙の危険性が高いことを意味する。このため,電池技術者は事故を起こさないように,慎重に開発を進めていた。そのときに起こった事故。電池業界は凍りついた。

Liイオンが不動の地位を築く

 Li材料を用いた円筒型2次電池の実用化は時期尚早ではないか─注2)。実用化に対して消極的な意見がささやかれ始めた1990年初頭。この状況を,ソニー・エナジー・テックが打ち破った。1990年2月に新しいLi2次電池である「Liイオン2次電池」の実用化を発表したのだ(図1)。

注2) エネルギー容量が小さいコイン型Li2次電池は,1989年の時点で既に実用化されていた。

†ソニー・エナジー・テック=1986年4月に設立された,ソニーの電池製造会社。2000年8月にソニー本宮と合併してソニー福島に社名変更。さらに,2004年7月にソニー栃木と合併してソニー・エナジー・デバイスとなり,現在に至る。

図1 Liイオン2次電池の高容量化の歴史
図1 Liイオン2次電池の高容量化の歴史
外形寸法が直径18mm×長さ65mmのいわゆる「18650セル」の体積当たりのエネルギー密度をプロットした。1991年にソニーが実用化して以来,1年間に約30Wh/L増のペースで体積当たりのエネルギー密度が高まっている。2009年には700Wh/Lを超える。

 事故を起こしたLi2次電池は金属Liを負極に使っていたため,充放電を繰り返すごとにデンドライト(樹枝状結晶)が成長する。これが原因となり,最終的には正極と負極の間で短絡が発生し,発火・発煙に至る危険性があった。一方,Liイオン2次電池は,正極にも負極にも金属Liを使わない。正極に採用したのはLiCoO2(コバルト酸リチウム)という合金材料で,負極にはコークス系カーボンを採用した注3)。これらの電池材料であれば,エネルギー密度は金属Liを使う2次電池に比べると低くなるものの,デンドライトは発生しない。つまり,十分な安全性を確保した円筒型Li2次電池を実現できたわけだ。

注3) Liイオン2次電池の基本的なアイデアは,旭化成の吉野彰氏が1980年代前半に考案した。当時の電池系は,負極が有機導電体であるポリアセン,正極がLiCoO2,電解質は有機溶媒だった。

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