もう一つは,企業の拠点と拠点をつなぐ広域ネットワークである。1984年に高速デジタル専用線サービスが始まったことを受けて,電話,データ通信,ファクシミリ通信などをマルチメディア多重化装置(MMM)で統合する広域ネットワークの構築が大手企業を中心に盛んになった。当時は企業内INSと呼ばれていた。LANの普及に伴ってデータ通信が中心になると,WAN(wide are network)と呼ばれるようになった。

 こうした企業ネットワークの需要の高まりを受け,通信事業者が生み出した通信技術がATM(asynchronous transfer mode)である(図2)。

図2 ATMからIPへ
図2 ATMからIPへ
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 ATMではあらゆるタイプの通信に対応するために,マルチメディア通信技術が次々と投入された。例えば,音声とデータが混在するネットワークの中で音声をきちんと通信相手に届けるために,通信路をあらかじめ確保しておく回線交換型のコネクション・オリエンテッド通信や,音声や映像が途切れたり遅延したりしないようにする品質制御技術のQoS(quality of service)などが盛り込まれた。こうして機能拡大を続けたATMの技術開発は1990年代前半にピークを迎え,LANからWANまですべてをATMで賄うオールATMネットワークの実現が期待された。

 ところが,1990年代後半に入るとATMへの期待は急速にしぼんでいく。あまりに多くの機能を詰め込もうとしたために,システムが複雑で高価になり,急増するデータ通信のニーズについていけなくなった。代わってデータ通信技術の主流に躍り出たのがEthernetとIP(internet protocol)である。EthernetとIPの機能は,ATMに比べると極めてシンプルである。ただ,それ故に高速化と低コスト化をどんどんと進めることができ,インターネットをはじめとするデータ通信の基幹技術として定着するに至った。

 EthernetとIPに見るように,勝ち残りのキーワードは「シンプル」と「高速化」だ。ここからは,Ethernetの標準化と競争の歴史を見ていく。