エレクトロニス業界の歴史を振り返ると,技術の主役はアナログからデジタルへと段階的にシフトしてきた。つまり,音声や画像,映像,有線/無線通信など,ありとあらゆる信号がデジタル化してきたわけだ。これに伴い,信号を処理する半導体部品でも,市場牽引役がアナログICからデジタルICへと移行した。現在,半導体市場において80%強の売上比率を占めるのは,マイクロプロセサやマイコン,DSP,FPGA,DRAM,フラッシュ・メモリなどのデジタルLSIである。まさに「デジタル全盛の時代」だ。

【図1 アナログはなくならない】電子機器は,現実世界との情報のやりとりが欠かせない。このため,アナログ・インタフェースがなくなることはない。しかも,デジタル回路はそれ単体では機能しない。アナログ技術で生成するクロック信号や電源などの供給が必要である。東京工業大学の松澤氏の資料を基に本誌が作成。
図1 アナログはなくならない
電子機器は,現実世界との情報のやりとりが欠かせない。このため,アナログ・インタフェースがなくなることはない。しかも,デジタル回路はそれ単体では機能しない。アナログ技術で生成するクロック信号や電源などの供給が必要である。東京工業大学の松澤氏の資料を基に本誌が作成。
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 しかし,信号のデジタル化がいくら進んでもアナログICが半導体市場から消え去ることは決してない(図1,図2)。理由は大きく分けて二つある。一つは,デジタル信号処理の対象範囲が拡大しても,人間や自然界とのインタフェースはアナログ技術でなければ実現できないこと。もう一つは,デジタル回路だけでは半導体チップは動かないことにある。アナログ回路で生成するクロック信号や電源を供給しなくては,デジタルLSIは動作しない。しかも,微細化の進展によって電源電圧の低下が進んだ結果,デジタルLSIにおいて,雑音の影響で正常に動作しないというトラブルが多発している。こうしたトラブルを解決するには,アナログ技術が不可欠だ。

図2 堅調に伸びるアナログ半導体市場
図2 堅調に伸びるアナログ半導体市場
アナログ半導体市場は,半導体市場全体の15~20%を占める。メモリやロジックと違って,市場規模が大きく変動することなく堅調に伸びている。WSTSの資料を基に本誌が作成。