初期に導入されるLTEが今後,どのような進化を遂げるのか。予定されている性能向上のシナリオを整理する。

1.25M~20MHz幅で利用

 現状,LTEが多数の支持を集める理由は,以下の三つの技術的な特性が背景にある。それは(1)速度のスケーラビリティー,(2)低遅延,そして(3)端末の低消費電力化を考慮した伝送方式の採用,である。

 (1)は,利用できる帯域幅に合わせて各種の伝送速度に対応できることを意味する。LTEは5MHzといった現行3Gと同様の帯域幅から,10M~20MHzのサービスまで適用できる。例えば国内のW-CDMA方式と同様に5MHz幅を利用した場合,MIMOを活用しなくても,実効速度が約20M~30Mビット/秒程度のサービスが可能だ。一方,仮に20MHzの帯域幅が確保できれば,その4倍の100Mビット/秒前後のサービスが提供可能になる。このほか1.25M~2.5MHzといった,より低い帯域幅にも対応する。これは,GSMなど第2世代サービスを現在運営する携帯電話事業者に配慮した仕様である。

遅延を低減するネットワーク構成

 (2)の低遅延に関しては,採用するネットワーク構成を非常に簡素にして実現した。携帯電話端末とコア・ネットワークの間に介在する無線アクセス・ネットワークは,わずかに1ノードしかない(図1)。3Gなどでは,無線ネットワーク・コントローラ(RNC)など複数のノードを介在していた。LTEではRNCの機能をLTE用基地局内部に包含させて,パケットの伝送時間を短縮した。これに加え,パケットの共用チャネルを最大限活用して冗長なチャネルを削減したり,状態遷移モデルを簡略化して不要なデータ量を減らしたりするといった伝送プロトコルの簡素化で,伝送遅延を1ケタ短縮するという大幅な特性改善を実現している。接続を確立するまでの手続きも簡素化し,制御遅延も100ms以下に低減した。「RNCの機能を兼ね備えた基地局にとって,5msという伝送遅延は非常に大きなチャレンジだ。これを何とかして実現することで,ユーザーが我慢していた『応答の悪さ』を解消できる」(NEC モバイルRAN事業部統括マネージャーの近藤誠司氏)。

【図1 遅延時間の短縮を狙った無線ネットワーク構成】 LTEはW\-CDMAに比べて,制御遅延(電源がオンで通信セッションが張られていない状態から,セッションが張られた状態に遷移するまでの時間)と伝送遅延(通信パケットが端末から出て無線区間の出口に到達するまでの時間)をそれぞれ1ケタ程度短縮する。無線アクセス・ネットワーク内の二つのハードウエアを一つに統合して階層を低くしたり,セッションを張るまでの手続きを簡便にしたりといった工夫によって実現した。
図1 遅延時間の短縮を狙った無線ネットワーク構成
LTEはW-CDMAに比べて,制御遅延(電源がオンで通信セッションが張られていない状態から,セッションが張られた状態に遷移するまでの時間)と伝送遅延(通信パケットが端末から出て無線区間の出口に到達するまでの時間)をそれぞれ1ケタ程度短縮する。無線アクセス・ネットワーク内の二つのハードウエアを一つに統合して階層を低くしたり,セッションを張るまでの手続きを簡便にしたりといった工夫によって実現した。
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