事業者主導の端末開発の終焉

 LTEの登場は,「携帯電話機」の枠にとらわれない新しい端末の登場を促すことになる。通信料が安くなり,送受信チップセットも安価に入手できるようになる。そして最大データ伝送速度が向上し,これまでの移動体通信ではあきらめていた用途に光を当てる。

 LTEは,携帯電話機以外も想定して開発された。現に2008年4月に提案された特許ライセンス料の枠組みはノート・パソコンにも言及している。さらに,モバイルWiMAXやLTEのサービス開始と並行して,MVNO(仮想移動体通信事業者)というビジネスモデルの導入も同時に起こる注5)。端末メーカーにとっての顧客が,携帯電話事業者だけとは限らなくなる。

注5) 例えばウィルコムやUQコミュニケーションズが2009年にサービスを開始する2.5GHz帯では,総務省は移動体通信事業者のネットワークを借りて無線通信サービスを提供するMVNOへの開放を義務付けた。Verizon Wireless社が落札した米国の700MHz帯の周波数オークションでも,端末やネットワークを開放することをFCCが義務付けている。

 これは,「通話中心」「通信事業者主導」という端末開発の常識が変わることを意味する。NTTドコモの3Gネットワークを使ったMVNOである日本通信は,IP電話機,「MID」などと呼ばれる小型パソコンなどの端末を用意する意思を表明している。MVNOによるモバイルWiMAXサービスの提供を前提とするUQコミュニケーションズには,「電子看板への広告配信サービス事業者,PND(portable navigation device)メーカー,鉄道会社などの問い合わせが多い」(同社 代表取締役社長の田中孝司氏)という。次世代モバイル・ブロードバンド技術の活用は,これまで携帯電話機を開発してきたメーカーだけにとどまらない。機器間での,人が介在しないデータ通信用途にも広がるだろう。メーカーが機器とネットワーク・サービスを組み合わせて提供する可能性すらある。

 通信事業者の要望に合わせて端末を開発すればそれなりの出荷量が見込めた時代は終わりを告げようとしている。次世代のモバイル・ブロードバンドで実現するサービスやアプリケーションのレベルまで含めて,魅力的な機器や利用法を提案したメーカーこそが,LTE時代の勝者になる(図6)。

図6 使いこなしを求められる機器メーカー
図6 使いこなしを求められる機器メーカー
LTEという高速・低遅延の無線方式の導入と並行して,MVNOの登場と,LTEの急速な普及が進む。携帯電話事業者の要求に従ってハンドセット型の端末だけを開発していた時代は終わりを迎え,従来の「携帯電話機」の発想にとらわれない新しい使い方を提案することが機器メーカーの役割となる。

―― 次回へ続く ――