ソフトウエア無線の開発には,NEC,ソニー,東芝など日本のメーカーも参戦している。もっとも3社はアーキテクチャの開発より,フィルタなどのRF素子の開発に注力している。このうち,NECはチューナブル低域通過フィルタ(LPF)をアナログ技術とデジタル技術を組み合わせる独自の手法を開発して実現した(図52)

図5 デジタルの力を借りる
図5 デジタルの力を借りる
NECが開発したチューナブルLPFの構成(a)。従来のLPFに印加する電流をCMOS回路によってパルス状に変えて,平均電流を制御する。これにより,信号の通過帯域幅を変えられるようにした(b)。

 「LPFを多数並べてスイッチで切り替える手法では新しい応答特性の要求に応えられない。かといって,印加電圧をアナログ的に変えるような制御はバラつきが大きくて使い物にならない」(NEC デバイスプラットフォーム研究所 主幹研究員の前多正氏)。

 NECはこうした課題を,CMOS技術で製造したパルス生成器で電流を矩形波にすることで解決した。矩形波のデューティ比を変えると,オペアンプに流れる平均電流が変わる。この平均電流や波形を制御するとLPFのフィルタの通過帯域や応答特性をさまざまに変えられるという。「65~90nmルールのCMOS技術で,パルス制御が低消費電力で可能になったからできた。180nmルールでは難しかっただろう」(NECの前多氏)。

 現時点では,帯域通過幅を400k~30MHzの間で制御できる。「一部の高速無線LANやWiMAX,LTEを除いてほとんどの無線システムに利用できる」(同氏)という。

ボトルネックの部品を改善

 本格的なソフトウエア無線を開発する上で個別の部品もほぼ出そろい,システムを組み上げる可能性が見えてきたのが現状である。ただし部品の性能を見ると,まだ既存の無線システムに比べて不十分なものも多い。特に,ネックになっていたのがLNAである。これまでのLNAは,広帯域あるいはチューナブルにすると,雑音指数(NF)の値などが増大してしまう課題があった。ルネサス テクノロジも「多数の無線のRF回路を1チップにする際に,LNAをどうするかが課題の一つ」(同社の田中氏)と指摘する。