振動数が小さいと素子も小さい

 このメタマテリアルの最大の特徴は,信号の進む向きと波の位相の進む向きが逆になる「遅延波」が生じるなど,従来の伝送線路では起こり得ないことが起こる点である。こうした性質をアンテナ素子に応用すると,電磁波の振動数が小さくなるほど,より小さなアンテナ素子で共振するようになる(図A-1(d))。一般的には,振動数が小さい電磁波を受けるにはより大きなアンテナが必要になるのと全く逆になる。また,単位セルがCとLから構成されているため,このCとLをチューナブルにすれば,チューナブル・アンテナも容易に作れる。

 UCLAの伊藤氏は1.06GHz帯の電磁波に向けたアンテナ素子を2005年の時点で作製済み(図A-2)。アンテナ素子の寸法は1.2cmであるため,1辺は1/23波長になる。伊藤氏は,ほかにもさまざまな,一般の材料では実現が困難なRF素子を作製している。

図A-2 メタマテリアルを利用した各種マイクロ波用デバイス
UCLAの伝送線路型メタマテリアル研究室で開発されているマイクロ波用デバイス群。(a)は,1GHz帯の電波を1/23波長に対応する約1cm角の素子で送受信できるアンテナ。(b)は,ε’μ’=0の場合に起こる「0次共振」という現象を利用した分波器。位相が完全にそろった分波ができるのが特徴。(c)は,メタマテリアルで電波のビーム方向を制御できる「漏れ波型アンテナ」。等価回路の容量の値などを制御することで,素子の性質を右手系,0次,左手系の間で変化させて実現する。(d)は,1次元版の漏れ波型アンテナ。曲がっていても,ビームを狙った方向に出せるという。(e)は,特定の周波数帯をフィルタリングするバンド・ストップ・フィルタ。(f)は,これらを開発したUCLA Professorの伊藤龍男氏。

「アナログ版ムーア則始まる」

 このメタマテリアルを最大の武器とするRayspan社は,「これまでアナログ技術はデジタル技術に比べて微細化,集積化が大幅に遅れていた。メタマテリアルを駆使することで,今後はこの差を縮めていきたい。我々は,メタマテリアルはRFアナログ素子にとっての新しいスタンダードな技術になると思っている」(同社のAchour氏)と主張する。

 開発間もないメタマテリアルには当初,利用帯域が狭い,損失が大きいといった課題があったが「最近は,中心周波数が2GHzであれば160M~200MHzの帯域幅で機能するアンテナが得られるなど,一般のアンテナ素子並みに帯域幅が広いものも作製できるようになってきた。今後は単機能の素子だけでなく,いくつかの素子の機能を組み合わせたような素子を開発していく計画」(UCLAの伊藤氏)というA-1)

参考文献
A-1) Lee,C-J. et al.,“Broadband Small Antenna for Portable Wireless Application,”Proceedings of 2008 International Workshop on Antenna Technology(IWAT 2008):Small Antennas and Novel Metamaterials, pp.10—13,Mar. 2008.

――次回へ続く――