複数の無線方式がそれぞれMIMOを利用する時代を間近にして
アンテナ素子を超小型にする技術が開花し始めた。
歴史は長いが応用が限られていたスマート・アンテナ技術も
一気に実用化されそうだ。
小型アンテナ素子の特性を適応的,自律的に変えることで
その限界を補完する手法が,今後は標準的になりそうだ。
MIMOが標準となった無線通信時代に携帯電話機が「アンテナの林」になるのを防ぐには,アンテナ素子を非常に小さくするか,あるいは1組のアンテナ素子で複数の無線方式に対応するほかない。ところが,これは容易ではない。移動体通信に限っても,利用されている無線周波数は470M~6GHz,波長にして約5~64cmと非常に幅広いためだ(図1)。
アンテナ素子に金属を利用する場合,性能を落とさずにアンテナ素子を1/4波長より小さくするのは,かなりの工夫が必要である。しかも,MIMO向けアンテナとして利用するには一般に,アンテナ素子間を1/2波長以上離して設置する必要があるなど設計上の制約が多い(図2)。例えば,800MHz帯では1/2波長が18cm前後になる。これでは,従来のアンテナはもう利用できない。
メーカーなどがこうした問題に対応するために採り得る戦略は,大きく三つに分かれる。(1)メタマテリアルの採用,(2)極細幅素子の採用,(3)特性可変型アンテナと制御技術の組み合わせ,である。(1)はアンテナ素子の構造を変え,小型化かつ放射界の分布を設計可能にする。(2)は素子を透明に近くして数十本使っても目立たなくする。(3)は特性やビームの方向を周波数や利用状況に応じて切り替えて,実効的な性能を引き上げることを狙う。