MIMOは複数のアンテナを利用することで,周波数帯域を増やさずにデータ伝送速度を高めたり,ダイバーシチによって通信距離を延ばしたりする技術である。無線通信の性能を高めるという点では優れた技術と言える。ところが,アンテナ素子を複数本用い,しかもそれぞれの距離をできるだけ離す必要があるため,実際の無線機器に実装する際の課題が山積している(図2)。

図2 携帯電話機は既に無線を満載,従来のアンテナ技術ではもう限界に
現在のいわゆる「全部入りケータイ」には,計7種類もの無線方式向けのアンテナをすべて搭載した製品がある。しかし,無線方式の追加は限界に近づいており,今後新たに搭載される見込みの,MIMO対応無線LAN,モバイルWiMAX,LTEなどを搭載するには,何か技術的な飛躍が必要になっている。

 最も深刻なのが,携帯電話機への実装である。理由は大きく3点ある。(1)携帯電話機は既に無線モジュールやアンテナを満載しており,追加の余地が少ない,(2)デザイン上の観点から外部アンテナを増やしにくい,(3)筐体が手のひらに載るサイズでアンテナ素子間の距離を十分確保できないため,せっかくのMIMO技術が本来の性能を発揮できない恐れがある,という点である。

 (1)について見ると,現時点の携帯電話機は,2004年の時点でフィンランドNokia Corp.が予測した「携帯電話機は近い将来,8種類の無線システムを搭載し,アンテナ数は11本になる」という推定がほぼ現実になっている。「搭載できる無線システムの数は限界に近く,従来技術での単純な追加は困難」(ある携帯電話機メーカー)とみる意見が少なくない。

 無線方式をこれ以上増やすには,複数の無線モジュールを統合する技術の推進が必要不可欠になっている。こうした技術は,ベースバンド処理回路などデジタル処理できる部分から先に進み,RFアナログ回路がそれに遅れてついていっている状況である。アンテナ以外の無線モジュールに関しては,最近になってようやく統合にメドが立ちつつある(「ソフトウエア無線が実現間近,部品の改良で特性が向上」(3/5公開予定)参照)。

携帯電話機が「千手観音」に

 これまではアンテナだけが,このモジュール統合の波に取り残されており,機器メーカーはなんとかやりくりしてしのいでいた。だが,MIMO時代の無線端末では,こうしたごまかしが利かなくなる。(2)の,端末デザインの問題があるからだ。